ひなた荘へようこそ
外は明るい・・・
太陽もまだ高い位置にある・・・
明るい・・・
明るいはずなのに・・・・・・
ラブひな
ひなた荘管理人記録[1P]
『笑っていてほしいから・・・』
(完結編)
チッチッチッチッ・・・
時計の音だけが微かに沈黙を許さない・・・
カンカンカンカン・・・
廊下を走る音が聞こえる・・・
その音はだんだん大きな部屋に近づいてくる・・・
その部屋の近く・・・
椅子に男女が一人ずつ・・・
俯いて座っている・・・
カンカンカンカン・・・
チッチッチッチ・・・
普段聞いている何気ない音でも・・・
今回だけは・・・とてもうるさかった・・・
カンカン・・・
足音が止まる・・・
大きな部屋の前でその足音が止まった・・・
女性が六人・・・
部屋の前で立ち止まっている・・・
どうやら足音の主はこの六人の女性らしい・・・
そして・・・一匹・・・ペットのような生き物が飛んでくる・・・
後に、椅子に座っている男性の肩に乗る・・・
『景太郎・・・』
景太郎『・・・成瀬川・・・
・・・・・・みんな・・・
・・・連絡もしてないのにどうして・・・』
『タマが知らせてくれたんですよ・・・』
景太郎『むつみさん・・・』
むつみ『・・・私達、聞いたときにすぐ飛び出してしまったので・・・
電話に気がつきませんでした・・・』
『・・・だから誰もでなかったのか・・・』
景太郎の横に座っている女性は素子だった
二人一緒に来たのだろう・・・
なる『・・・しのぶちゃんは・・・?』
景太郎『・・・・・・・・・・・・・・』
景太郎は黙って部屋の扉・・・
その上にある光ってるプレートを見上げる・・・
・・・プレートには
「手術中」
という文字が書いてある・・・・・・
『・・・まいったな
まさか本当に・・・』
景太郎『・・・はるかさん・・・・・・』
はるか『・・・一体何があった?
聞いた話じゃ交通事故だと言っていたが・・・?』
『みゅ』
景太郎『・・・・・・交通事故だと思います』
『思う・・・っちゅうのはどういうことや?」
キツネが真剣に問いかける
景太郎『・・・俺にもよくわからないんですよ・・・
・・・・・・すごい音がした後・・・ 駆けつけたら・・・』
キツネ『・・・・・・・・・・・・』
はるか『・・・一緒にいたんじゃなかったのか?
お前がしのぶと一緒に出かけるとこを見た気がするんだが・・・』
景太郎『・・・・・・少し目を離したら・・・
・・・いなくなってて・・・』
素子『・・・私達があんなくだらないことで揉めあっていたから・・・』
はるか『・・・しのぶもそんなに子供じゃないんだ
お前らの責任じゃない・・・ 誰の責任でもない・・・』
・・・誰も悪くはない・・・・・・
景太郎『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『しのむ・・・
どないしてしもたんや・・・?』
突然の出来事でさすがのスゥもいつものテンションを失っていた・・・
『・・・死んでないんだよな・・・?』
サラが静かに問いかける・・・
景太郎『・・・大丈夫だよ
・・・・・・しのぶちゃんは・・・死んだりしないさ・・・』
スゥ『ほんまに・・・?』
景太郎『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・大丈夫、きっと元気な顔で・・・』
突然、「手術中」のランプが消えた
景太郎『!!』
その直後、扉が開き
看護婦がベッドを移動させる
ベッドには・・・
生気のこもっていないしのぶの姿があった・・・
景太郎『しのぶちゃん!』
素子『しのぶ!』
・・・返事はない
少し遅れて扉から出てきたのは
・・・夥しい量の血がついた服を着た男性
おそらく手術を行った先生だろう
『しのぶ!!』
廊下の方から聞こえてくる声・・・
男女が一人ずつ立っている・・・
はるか『・・・あなたたちは』
『しのぶの両親です・・・』
景太郎『・・・・・・・・・・・・』
しのぶ母『それで・・・娘は・・・しのぶはどうだったんですか!?』
Dr.『・・・最善の処置は施しました・・・
・・・・・・しかし・・・ 長くもっても・・・明日が峠でしょう・・・』
・・・・・・この瞬間
周りの空気が凍りついた・・・・・・
しのぶ母『・・・そ・・・んな・・・
う・・・嘘です・・・よね・・・?』
Dr.は静かに首を横に振った・・・
しのぶ母『・・・・・・!!
・・・・・・・・・・・・・・』
しのぶの母はその場に膝をつき
顔を手で覆った・・・・・・・・・・・
微かに声が漏れている・・・・・・
しのぶ父『・・・もう、どうしようもないんですか・・・?
しのぶは・・・助からないんですか!?』
Dr.『・・・あとは、本人の気力次第です・・・・・・』
そう言い残してDr.は集中治療室へ向かった
スゥ『・・・・・・なぁ、"とうげ"って・・・何や・・・?』
キツネ『・・・・・・・・・
目を閉じて・・・ もう・・・二度と・・・目をあけられんことやろな・・・』
スゥ『・・・しのむ、眠っとるんか?』
キツネ『・・・・・・今は眠っとる・・・
でもな、しのぶががんばれば・・・また目を覚ますかもしれへん・・・』
はるか『そうだ、まだ死んだわけじゃない・・・』
そして集中治療室へと足を進めた・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
素子『・・・・・・なぜ事故につながったんでしょうか・・・
・・・車側の運転が悪かったのか・・・しのぶが飛び出したのか・・・』
原因を知る者はいなかった
運転手も治療を受けている
・・・その現場にいたしのぶも・・・・・・・・・
『あ・・・ あの・・・』
なる『・・・あなたは・・・?』
『あの・・・、私・・・前原さんと同じクラスの・・・』
なる『そう・・・』
友人『す すみません!
わ 私の妹が・・・』
その言葉を聞いた時、
全員の足がピタリと止まった・・・
友人『私の妹が・・・こんな・・・こんなことに・・・』
彼女の声は震えた声だった・・・
むつみ『・・・何があったか、話してくれるかしら?』
友人『・・・・・・わ 私の妹が・・・
・・・道路に飛び出し・・・て・・・
・・・・・、・・・・・・・』
むつみ『・・・落ち着いて、
大丈夫、誰も怒ったりしないから・・・』
友人『・・・・・・・・・・・・
・・・わ 私の妹が・・・ 道路に・・・飛び出しちゃ・・・って・・・
く 車がきた時・・・・・・前原・・・・・・さん・・・・・・が・・・・・・』
・・・つまり、こういうことらしい
小さな女の子が道路に飛び出した
車が迫っていることに気付いたしのぶは・・・女の子を助けようとして・・・
キキィィィィィ・・・・・
・・・女の子を助けることはできたが・・・
しのぶ自身は・・・・・・・・・・・・・
しのぶ母『・・・そ そんな・・・
なんで・・・後のことを考えないの あの子は・・・・・・
そんなかっこいいこと・・・しなくてもいいじゃない!』
『・・・でも』
景太郎が口を開いた
景太郎『・・・・・・しのぶちゃんはそういう女の子なんです・・・
俺に何がわかるかと言われれば・・・それまでなんですけど・・・
いつでもしっかりしていて・・・
素直な女の子なんです・・・
・・・だから・・・ しのぶちゃんを・・・叱らないでください・・・』
しのぶ母『・・・そ・・・んなこと・・・
わかってるわよ・・・
・・・でも!』
はるか『・・・まぁ、落ち着いてください』
しのぶ母『・・・なら、どうすればいいっていうんですか!?
こんなときでも笑っていろとでも言うんですか!?』
はるか『あなたが取り乱したからよくなるわけじゃないでしょう!?』
珍しいはるかの大声に
あたりが"しん・・・"と静まった
しのぶ母『・・・・・・・・・どうしろって・・・言うのよ・・・』
しのぶの母は、膝をついて・・・泣き崩れた・・・
横で、しのぶの父が慰めている・・・
友人『・・・わ 私が・・・・私がしっかりしていれば・・・!!』
しのぶの友人も顔を覆って泣き出してしまった・・・
むつみ『・・・ううん、誰のせいでもない
あなたのせいでも・・・あなたの妹のせいでも・・・
私のせいでも・・・みんなのせいでも・・・・・・・
・・・・・・しのぶちゃんのせいでもないの
・・・誰も悪くないのよ・・・』
友人『・・・でも・・・・・・』
むつみ『・・・これは運命・・・
神様が決めたことなの・・・
・・・人はいつか死んじゃうけれど・・・
死ぬときは人それぞれ・・・
しのぶちゃんはそれが早かっただけ・・・・・・』
なる『むつみさん・・・!
そんな言い方・・・・・・』
むつみ『・・・そうですね
言い方はひどいかもしれない・・・
・・・でも、ほかに・・・どんな言葉が並べられるんです・・・?』
なる『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
むつみ『・・・でも、私の言ったことがすべての真実じゃない・・・』
なる『・・・・・・え?』
景太郎『・・・そうですよ
・・・・・・運命は変えられる・・・・・・』
なる『・・・・・・そうだね
なにもかも・・・決められたとおりの世の中なんて嫌・・・
運命は・・・自分で切り開いていく・・・』
むつみ『・・・そういうことです・・・』
景太郎『しのぶちゃんも・・・それに気づければ・・・』
なる『・・・きっと気づくわ
・・・・・・ううん、絶対気づくよ
・・・・・・・・・たとえ気づかなかったとしても・・・
神様が・・・しのぶちゃんを見放すわけがない・・・』
むつみ『・・・そうですね
しのぶちゃんみたいな子・・・ いまどきいませんよ・・・』
景太郎『・・・もし、しのぶちゃんがこのまま・・・起きなかったら・・・
・・・・・・神様が見捨てたのなら・・・』
『神様だって怨んでやる・・・・・・・・・・』
なる、景太郎、むつみの声がそろった・・・・・・
・・・その後、長い沈黙が流れた・・・・・・
しのぶ(・・・あれ?
・・・・・・ここ、どこだろう・・・?
私・・・どうしちゃったんだろう・・・?)
・・・しのぶの目には何も映らなかった・・・
見えないのではない・・・
見えるものがないのだ・・・
・・・今、しのぶは何もない空間にいる・・・
しのぶ(・・・そうだ、私・・・
女の子を守ろうと思って・・・・・・道路に飛び出したんだっけ・・・
・・・あの子、無事かな・・・?
・・・・・・私は・・・無事だったのかな・・・?)
・・・・・・しのぶの目の前に一筋の光が現れた・・・
しのぶ(・・・あれは・・・?
・・・・・・そうか、私・・・死んじゃったんだ・・・
・・・あの光の向こうには・・・天国があるのかな・・・
・・・・・・天国って本当にあるんだ・・・
でも・・・、私なんかが天国にいけるのかな・・・?)
「なら・・・あなたは"地獄"に落ちたいの・・・?」
しのぶ『誰・・・?』
しのぶの前に青白い光が現れた・・・
光はだんだん人型になっていき、
やがて少女の形になった・・・
?「私は・・・・・・あなた」
・・・・・・しのぶには今の言葉の意味が理解できなかった
しのぶ『あなたが・・・私・・・?』
?「そう・・・、あなたがいるから 私はいるの」
しのぶ『・・・えっと、よくわからないんだけど・・・』
?「・・・いずれわかるよ
詳しく言うなら、私は・・・人間の感情の一部である・・・"妬み"」
しのぶ『・・・ねたみ・・・』
?「そう・・・
人間の感情はいろいろあるの・・・
その感情が大きくなって・・・私の中の・・・私を生み出した
つまり、あなたの中の私を生み出したのはあなたであり、また・・・私である」
しのぶ『・・・・??』
ややこしくてよく理解できていないようだ
?「わからなくてもいいよ・・・
とにかく、あなたの中の"妬み"という感情が私を生み出したの・・・
・・・だから、今・・・あなたの中には"妬み"という感情はないはず・・・」
しのぶ『・・・・・・私・・・妬みなんて・・・』
?「・・・・・・あなたは・・・浦島センパイのこと・・・どう思ってるの・・・?」
しのぶ『・・・え?』
?「・・・センパイのこと・・・好きなの?嫌いなの・・・?」
しのぶ『・・・そ そんな・・・』
?「・・・どうなの? 答えて・・・」
しのぶ『・・・・・・好き
・・・私、センパイのことが好き・・・
・・・・・・好きだけど・・・なぜか・・・胸が痛くなる・・・』
?「・・・"妬む"ことができないあなたにはその原因がわからないよ・・・
・・・・・・なるセンパイ・・・ わかるでしょ?」
しのぶ『・・・うん』
?「・・・あなたはなるセンパイに嫉妬していたの・・・」
しのぶ『・・・嫉妬・・・・・・』
?「・・・今のあなたにはわからないよ
妬みという感情が抜けているのだから・・・」
しのぶ『・・・嫉妬だなんて・・・
私・・・なるセンパイを尊敬しているのに・・・・・・』
?「・・・・・・そのなるセンパイを好きになった人・・・
その人が・・・あなたの好きな・・・浦島センパイなの・・・」
しのぶ『・・・そ そうなんだ・・・』
?「・・・・・・なるセンパイも・・・嫌いというわけじゃないみたいだし・・・
相思相愛・・・ あなたはそう見ていたんじゃないかな?」
しのぶ『・・・・・・・』
?「思い出さなくていいよ
・・・思い出せないんだから」
しのぶ『・・・でも、仕方ないよ・・・
・・・・・・好きになっちゃったんだから・・・』
?(悲しみ・・・か)
しのぶ『・・・だから 私もしょうがないんじゃないかな・・・って』
?「・・・・・・?」
しのぶ『・・・私だって好きになっちゃったんだもん・・・
浦島センパイのこと・・・
・・・嘘なんかじゃない、
・・・・・・素直に・・・"好き"なんだよ・・・』
?「・・・そう・・・
・・・・・・"妬み"が抜けたあなたは・・・素直・・・なのね
・・・素直な感情が一番強いのね・・・」
しのぶ『・・・もし、妬むことがあったとしても・・・
私は・・・浦島センパイが好きだから・・・
浦島センパイが私に振り向いてくれなくても・・・
私が好きでいるから・・・・・・』
?「・・・・・・強いんだね」
しのぶ『・・・私、負けないよ・・・
負けられない・・・
なるセンパイがなにをしてても・・・私・・・』