---最近・・・なんだか視線を感じる・・・
  ・・・みんなにジロジロ見られてるような気がする・・・
  僕の顔に何かついてるのかな・・・?

『そこのプリティなお嬢さん、ちょっといいかな?』

『・・・プリティ? ・・・・・・僕が?』


------Story05〜Yuma's Episode〜『猫』------


教室の隅っこに何かうずくまっている
猫のような耳をつけて更に尻尾までつけている少女である
彼女は小刻みに震えていた

『ね、猫塚さん・・・?』

明らかに様子がおかしい少女由真≠ノ楓が声をかけた
由真からの反応は帰ってこない

顔が見えないためどうなのかわからないが・・・泣いているように見えなくもない

『・・・・・・・・・』

なにかボソボソと呟いているようだ
声が小さいため聞き取りにくい

『お〜い、猫塚さ〜ん』

『・・・は・・・ ・・・めいに・・・・・・ドルに・・・』

ボソボソ呟いている
所々しか聞こえないので何を言っているのかはわからない

『ふふ・・・ふふふふふふふふ・・・・・・』

不気味な笑い声が聞こえる
この笑い声を発しているのは目の前でうずくまっている由真だ
先ほどより震えが酷くなっている
「ウズウズしている」という表現の方が正しいだろうか

『ねぇねぇ!僕ってアイドル!?』

突然由真が立ち上がった
そしてその勢いのまま楓の肩をつかみガクガクと揺さぶった

『ねぇ!楓ぴょん!!』

必死なのか由真の表情が怖い
ガクガクと揺さぶられて楓の思考はハッキリしなくなっていた

『かーえーでーぴょーんー!!』

ガクガクガクガク・・・

ふとそんな様子をクラウスが目撃した

『なな・・・な、な・・・何をやってるんですか・・・!?』

『あ、クラちゃ〜ん』

やけに目を輝かせている由真
彼女の手は相変わらず楓を揺さぶっている
もはや楓の反応はない
ただ揺さぶられるままにガクガクと揺れていた

その様子に気づいたクラウスはあわてて止めに入った

『ゆ、由真さぁん!』

『に?』

やっと由真の手の動きが止まる
解放された楓はその場でクラクラした後・・・倒れた

『お、お師匠様ぁ!?』

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

『・・・で、「アイドル」って何さ・・・?』

楓が気がつき次第本題に入った

『なんかさ、僕って目立つらしくてね
 なんと・・・・・・スカウトされちゃったんだよね!』

『スカウト・・・ですか?』

『そう!街中をフラリと歩いてたら・・・かっこいいお兄さんに声をかけられちゃってね〜
 これってすごいことだよね〜』

胸を張って話す由真
いかにも「えっへん」といった感じである

『知らないおじさんにはついていかない方がいいぞ〜』

からかうように楓が言う

『うん 逃げたよ
 だって怪しさ満点だったモン』

あっけらかんと答える由真

『追いかけられたりしませんでしたか・・・?』

『あはは、そんなに心配することないよクラちゃん
 僕を甘く見ちゃいけないよ〜
 これでも100mを30秒以内に走れるんだから!』

『・・・せめて13秒くらいで走らないと・・・』

『そ、そんな無理だよ!?』

『鍛えましょう! 明日から朝練しましょうか?』

『や、やだぁ!』

由真は後ずさった
クラウスはじわりじわりと迫っていく

『ダメですよ〜 ちゃんと鍛えないと』

『ぼ、僕はアイスがあれば幸せなの!』

『アイスばかり食べてると太っちゃいますよ〜』

『ぼ、僕は太らない体質なの!』

なんとも妙な会話である
そこでふと楓が口を開いた

『もしかして・・・目立つ理由って・・・その頭なんじゃない・・・?』

『頭?』

自分の頭をポンポンと触る由真
そして首をかしげて答えた

『別になんともないけどなぁ・・・』

いや、確実に目立っている
その明るめな茶髪はもちろん・・・なによりもその猫耳が!
・・・と、楓は言いたかった

『かわいい女の子は目立ちますよね  自然と』

『クラちゃんもかわいいよ?』

『そ、そんな・・・照れます・・・』

由真とクラウスのやり取りを見て楓はこう思った
「自分がここにいていいものか?」・・・と

『で、でもさ・・・僕らはもう慣れたけど・・・
 他の人にとっては結構珍しいんだと思うよ
 その・・・・・・・・・・・・耳』

とりあえずこのままでは居づらかったので脱線した話題を戻そうとする楓

『耳?』

ごく普通に頭についた猫耳を触る由真
そして首をかしげて答えた

『別になんともないけどなぁ・・・』

「彼女としては猫耳は普通なのか・・・」
そう納得する楓だった

『かわいいですよね  猫耳』

『ネコミミ?どれどれ?』

由真がクラウスの顔をジロジロと眺める

『い、いやいや・・・由真さんのです』

『僕の?』

自分の耳をなでるように触る由真
くすぐったいのか少々ピクピクしているように見える

『これ・・・普通の耳なんだけどなぁ
 なんで「ネコミミ」って言うんだろ・・・』

『そりゃ・・・猫みたいな耳だからでしょ』

『僕・・・猫苦手なんだけどなぁ』

「自分の姿と矛盾してるんじゃ・・・?」
・・・と言いたかった楓だが、やや面倒になりそうだったので言わないことにした

『猫可愛いですよ?』

『・・・いや、なんか苦手なんだよねぇ』

『まぁ、いいけどさ
 多分声をかけたその人はネコミミに惹かれちゃったんじゃないかな、って思うんだ』

『えぇ・・・ じゃ、つまり・・・何?
 耳以外に魅力はなかったってこと・・・!?』

頬を膨らます由真

『い、いやまぁそんな人もいるってことさ
 とりあえず関わらない方がいいよ  ロクな奴がいないし』

『あの人かっこよかったんだけどな・・・』

『ま、外見っていうか・・・耳でしか見てないような奴なんて気にしない方がいいよ』

『・・・ ・・・ ・・・
 みんな珍しそうに見てるけど・・・
 僕のこと避けてるよね・・・絶対』

なんだかいきなりテンションダウンしてしまったらしい
いつも騒いでいる彼女がこうも静かになってしまうととても気まずいものだ

普通の人は頭に猫の耳なんてつけてはいない
コスプレはまた別の話だ
もともと猫の耳がついている人間なんていない
つまり周りの人間から見れば、そんな耳をつけた少女は奇妙にしか見えないのだ
そんなわけで・・・みんな気味悪がって彼女を避けてしまう・・・

入学したばかりの頃はいろんな女子生徒と話していた由真
しかし飾りだと思われていたその猫のような耳が本物だと判明した途端・・・
みんな由真から離れていってしまった・・・
そして・・・由真はクラスで独りぼっちになった
入学して一ヶ月が経とうとしているというのに・・・彼女と接しているのは楓とクラウスだけだった

『楓ぴょんとクラちゃんだけだよ・・・
 僕と接してくれるのは・・・
 思い出すなぁ・・・あの頃を・・・』

この学校はエスカレーター方式とはいえど、
中等部から入学したり高等部から入学する生徒も少なくはない
由真、楓、クラウスの三人は高等部から入学した生徒である
楓とクラウスはお互いに面識があったものの、由真には中学時代の友人すらいなかった
そんな由真と二人がこうして親しく話せるようになったのも・・・あのことがきっかけになっているのだろう

『みんなこの耳を「かわいいね」って言ってくれた・・・
 でも・・・突然「本物の耳だ」なんて言って・・・僕に近づかなくなった・・・
 僕は独りぼっちになった・・・  誰も僕と話してくれなかった・・・
 先生だって・・・僕のこと気味悪がって・・・・・・』

入学後まもなく新入生を歓迎するオリエンテーリングが行われた
その時にクラスごとに数人でグループ分けをすることになった
もちろん・・・由真とグループを組みたがるクラスメイトは現れなかった
そのままでは先に進まないので、クジでグループを分けることになった
そして由真は楓とクラウスに出会った
クジの結果、由真と楓とクラウスは同じグループになったのだ

--------------------------

『同じグループだね、僕は楓
 よろしく、猫塚さん』

『私はクラウスです
 よろしくお願いしますね 由真さん』

『・・・・・・・・・うん
 ・・・あの・・・二人は・・・怖くないの?』

不安そうな眼で由真が問う

『何がですか?』

特に気にしていないかのようにクラウスが答える
由真は目をそらしてこう言った

『僕のこと不気味だ・・・って思わないの・・・?
 この耳・・・・・・』

『耳なんて気にすることないよ
 さ、今日は一緒にオリエンテーション頑張ろう?』

『そうですよ
 「よろしく」と言った以上・・・もう友達なんですから』

『・・・・・・ありがとう二人とも・・・
 うん・・・一緒に頑張ろうね』

--------------------------

『二人は・・・僕に普通に接してくれたよね
 この耳のことも・・・気にしないで・・・』

顔を伏せてしまう由真
その目には涙が溜まっていた

『・・・耳が他の人と違ったって・・・猫塚さんは猫塚さんだろ?
 入学式が行われたあの日の猫塚さんは生き生きとしていた・・・
 とても元気そうだったのに・・・三日と経たないうちに・・・誰とも話さなくなった
 そんな猫塚さんを見てられなかったんだ・・・』

『私達はそんな由真さんを元気付けてあげたかったんです
 だから・・・クジを少しいじって・・・同じグループになるように細工しました』

『え・・・? ぐ、偶然じゃ・・・なかったの・・・?』

顔を上げる由真
やはりその目には涙が溜まり、顔が赤くなってしまっている

『できれば進んで組みたかったんですけど・・・』

『周りの目が怖かったんだ・・・
 君と関わればクラスを敵に回してしまうような気がした・・・
 だから・・・偶然に見せかけて・・・クジを細工したんだ』

『お師匠様・・・ いいんですか・・・?
 そんなこと・・・言っちゃって』

『いいんだ  本当のことを言わないと・・・なんだか嘘を吐いてる気がするから・・・』

『お師匠様・・・』

『周りの目が怖かったからこんなことをした、なんて・・・
 卑怯だよな・・・僕って・・・
 勇気すら出せずに・・・クジで偶然を装ったりして・・・』

楓はうつむきながら申し訳なさそうに言った
由真はハンカチで涙を拭いてこう言った

『でも・・・そのおかげで僕に友達ができた
 正直・・・嬉しかったよ
 こんな僕にも普通に接してくれる人がいたということがわかったし・・・
 しかも・・・僕のために・・・クジを細工してまで一緒にグループを組んでくれた
 本当に・・・嬉しいよ』

『ん・・・ だからさ、周りの目なんて気にすることないんだ
 ・・・まぁ、僕が言うのもなんだけど・・・』

『由真さんには私達がいますから
 だから・・・元気出してください
 私達は裏切りません  ずっと・・・友達です』

『楓ぴょん・・・クラちゃん・・・』

由真の頬を一筋の涙が流れる

『はは・・・こんな時でも『ぴょん』なんだね』

『・・・・・・ありがとう
 うん、そだよね  気にすることないよね
 楓ぴょんとクラちゃんがいれば十分だよね』

『いえ、友達は増やすべきだと思いますが・・・
 ・・・まぁ、私達も今のところ由真さん以外にいないわけですが・・・』

『とりあえず三人で頑張ってこうよ』

『ホント・・・ありがとね
 僕らしくなかったよね  アハハ・・・やっぱり元気が一番!カナ』

由真にいつも通りの笑顔が戻る
そんな彼女を見て二人も安心したようだ

『その意気です  由真さんは元気なのが取り柄なんですから』

『む〜・・・他に取り柄がないみたいなこと言わないでよぉ!』

『い、いえ・・・そういうつもりでは・・・・・・』

『まぁ、そうかもしれないけどさ
 でも・・・不思議だよねぇ
 僕たちが出会ってからまだ一ヶ月も経ってないのに・・・』

『時間なんて関係ないよ・・・多分』

『なんだか頼りないなぁ、楓ぴょんは
 そんなんじゃぁ僕とクラちゃんを護れないぞ?』

楓に向けて人差し指をピシッと突きつける由真

『ぼ、僕が護るの?』

『あったりまえじゃん!
 他に誰がいるのさ?』

『・・・はぁ』

『何そのため息・・・
 女の子に護ってもらうつもりじゃないよねぇ・・・?』

『ま、まさかぁ・・・ ははは』

苦笑いしか返せない楓だった

『これでいつも通りの由真さんですね
 元気になってよかった・・・』

『クラちゃん達のおかげだよ』

『まぁ、その耳はなんか訳ありだと思うし・・・
 詳しくは探らないからさ  心配しなくていいよ』

『・・・ん〜  でも・・・特に訳なんてないんだよね』

『え? どういうことですか?』

『いや、何も心当たりがない・・・っていうか、覚えてないっていうか・・・
 僕はいたって普通の女の子だよ  まぁ、耳とシッポは変わってるけどさ』

「シッポのことすっかり忘れてた・・・」
楓は今頃そのことに気づいた

由真は腕を組む
そして首をかしげながらボソッと呟いた

『「呪われた娘」・・・』

『呪われた・・・?
 それって・・・何ですか?』

『いや・・・よくわかんないんだけどね
 たまに頭に響いてくるんだよ  こんな言葉が
 漫画の読みすぎかなぁ・・・・・・』

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴る
騒がしかった教室があわただしくなり、あわてて自分の席に戻る生徒達

『あ、授業始まっちゃうね
 席に戻らなきゃ』

急いで席に戻る三人
よく考えてみれば三人とも席は近いのだから席に戻ってもたいして状況は変わらない
・・・が、教師が来たとなれば別の話だ
さすがに授業中に喋っているところを見つかるとまずい

『ありがとね、二人とも』

由真は静かにささやいた
To be continued......


Back



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送