『なら、悲しい時は俺をその翠の代わりだと思っていい
 だから・・・もう泣くな』


------Story04〜Yuma's Episode〜『不思議な出会い』------


『天気良好!お日様こんにちは!
 雲ひとつないこの青空!
 絶好のお昼寝日和だね♪』

教室の窓から顔を出して由真が叫んだ
とても機嫌がよろしいようだ

『コラコラ・・・サボっちゃダメだって』

彼女のそばにいた楓が苦笑いを見せる

『止めても無駄だよ
 僕はやるって言ったらやるんだから!』

やる気満々である
彼女の言うとおり止めても無駄だと思った楓は諦めて席に着くのだった
由真もおとなしく自分の席に着く
由真の席は窓際、後ろに楓の席がある
そして楓の隣の席がクラウスである
偶然なのか何なのか・・・こんな配置になっている

そして由真は後ろを振り返った
目をキラキラ輝せて彼女はこう言った

『中庭でお昼寝してると会えるんだよね!?』

楓は呆れてどう答えるべきか言葉を探っていた
とりあえず楓の口から出たのはため息だった

『むぅ・・・ なにそれ・・・
 楓ぴょん酷い・・・』

頬を膨らませてしまう由真
すると今度はクラウスの方を向く
クラウスに聞いてみよう、とでも考えたのだろうが・・・
・・・クラウスは寝ていた
机にへばりつくような感じで眠っていた

『く、クラちゃん?クラちゃ〜ん』

反応がない、ただの屍のようだ

『・・・熟睡してるね〜』

訂正しよう
熟睡してしまっているせいか反応がない
とても気持ち良さそうに眠っている
幸い今は朝のホームルーム前なので寝ていても問題はない
とりあえず担任が来るまでは大丈夫だろう
そういうわけで寝かせておくことにした

『なんだか最近疲れてるみたいだね・・・水無月さん』

『楓ぴょんがあっちこっちに連れまわすからだよ
 もぅ・・・女の子には優しくしなきゃ!』

『そんなことしてないよ!?』

『アハハ 楓ぴょんおもしろ〜い♪』

楓の反応を面白がる由真だった
しばらくして担任が教室に来る
騒がしかった教室が一瞬で静まる
そして朝のホームルームが始まる
相変わらずクラウスは眠り続けていた・・・


そして一時間目の授業が終わった頃・・・
由真が勢いよく席を立った

『猫塚由真!未知なる遭遇のために出撃してまいります!!』

突然そんなことを叫んだ
クラスメイトの視線が由真に集中する
由真は視線を全く気にせず駆け足で教室を出て行った
楓はその後姿を見送っていた

『・・・本気か・・・彼女・・・・・・?』

本日二度目のため息をつく楓だった


『いざやってまいりました我が校の中庭
 いや〜相変わらずの眺めだね』

二時間目の授業を無視して中庭に来た由真
そしてあたりをキョロキョロと見回す

---とりあえず目立たない場所はないかな?
  授業サボっちゃったんだしね・・・見つかると面倒だし

キョロキョロしながら歩くこと約三分
それなりによさそうな場所を見つけてそこに腰をかけた

『ん〜 ここいいね〜
 多分ここなら誰にも見つからないんじゃないかな』

---あとはお昼寝して待つだけ、かぁ

青空を見上げる由真
そして大きなあくびをする

---よ〜し、きたきた・・・お昼寝モード♪
  おやすみなさぁい♪

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

『はぁ・・・ 意外と眠れないもんだねこりゃ・・・』

ため息をつく由真
目を閉じただけでは眠れなかったようだ

『なんだ・・・まだ10分も経ってないや』

気を取り直して再び目を閉じる由真だった


--------------------------

とある街の中
一人の少年が歩いている
その後ろに小さな少女が一人・・・

『由真、何か食べたいものとか・・・あるか?』

少年が振り向いて小さな少女に尋ねる
小さな少女とは幼い頃の由真の姿である

『いきなり何? 奢ってくれるの?』

嬉しそうな目で少年を見つめる由真
少年は笑顔でうなずいた

『ならアイスがいいな  冷たいアイス♪』

なんとも無邪気な笑顔である

『ははは  相変わらずアイスが好きなんだな由真は』

『笑うことないじゃない!
 アイスおいしいじゃん』

しばらくしてアイスを販売しているお店に着く
由真は目を輝かせて様々なアイスを眺めていた

『わぁ〜 すごい!
 すごいよ爺!いろんなアイスが!』

『こらこら、少し落ち着けって』

『だって、だってだってすごいんだってば!』

『はいはい』

ふと緑色のアイスが目に留まった

『ん?なんだろこれ・・・メロン・・・じゃなさそう
 ・・・も ・・・す・・・?』

『ん?どうした由真』

『んん?・・・まり・・・も・・・ あい・・・す・・・?』

『マリモがどうかしたか?』

『まりもあいす・・・マリモアイス!?』

--------------------------


『マリモアイス?』

『へっ!?』

突然声をかけられて飛び起きた由真
興奮したせいかシッポがピンと立ってしまう

---だだだ・・・誰!?
  てかいつの間にか寝ちゃってた!?

『ああああのっ・・・いいいいつからそこにっ!?』

由真の反応に相手の少年も驚いたようだ
さすがに派手に反応しすぎてしまったのだろうか

『あ・・・いや、すまん
 あんまり気持ちよさそうに寝てたもんだから・・・・・・』

『あ・・・あの・・・もしかしてずっと・・・?』

『いや・・・ついさっきだが』

『・・・・・・・・・・・・』

由真の顔が真っ赤になる

---ままままさかこの人・・・ずっと見てた・・・?
  うわ・・・は、恥ずかしい・・・

『あ・・・あうぅ・・・
 しっ・・・失礼しますっ!』

少年に背を向け一目散に走り去る由真
突然の出来事で心臓がバクバク鳴ってしまっている

---誰あの人!?
  クラちゃんから聞いた話では女の人だったはずだよね!?
  男の人だなんて話が違うよ〜・・・

ふとあることに気がつき由真は足を止めた

---・・・あの人・・・どっかで会ったような・・・?
  ・・・・・・・・・気のせいかな・・・


〜翌日〜


昨日出会った少年が気になって仕方がない由真
そんな彼女は珍しく呆けていた
先ほどから席に着いたまま外を眺めている

『どうしたんですか?由真さん』

『ん・・・?あ・・・クラちゃん
 いや、なんでもないよ うん』

---あの人・・・どっかで見たことあるような気がするんだよなぁ・・・
  ・・・・・・誰だっけ?

再び外の景色を眺める由真
今は一時間目が終わり、二時間目に移るまでのわずかな休憩時間である

---・・・誰だっけかな・・・
  あの髪・・・あの顔・・・・・・・・・・・・

--------------------------

『ははは  相変わらずアイスが好きなんだな由真は』

--------------------------

---!!!

『あぁぁ!?』

「バン」と机を叩き立ち上がる由真
突然の出来事に驚いてしまうクラウス

『ゆ、由真さん・・・?』

『ゴメンクラちゃん!
 今日も二時間目サボる!』

そう言うと由真は教室から駆け出していなくなってしまった
クラウスは何がなんだかわからない、といった表情で由真の後姿を眺めていた


---あの顔・・・どこかで見たことあると思ったら・・・
  爺だよね・・・  あの顔は・・・
  間違いない・・・  なんでいるのかわからないけど・・・あの顔は爺だ!

中庭まで走ってきた由真
辺りをキョロキョロと見回す

---さすがに・・・いないかな

由真は昨日昼寝をした場所まで歩いてくる
とりあえず誰かいないか確認をして眠りについた

---昨日と同じようにしてれば・・・また会えるかな・・・?


--------------------------

燃え盛る町
真っ赤な炎と黒い煙が辺りを包んでいる

『・・・由真、逃げろ』

『で、でも爺が・・・』

爺と呼ばれた少年は由真を軽く突き飛ばした

『早く行け!追っ手が来る前に・・・』

『じ、爺!』

『早く!!』

由真は唇を噛み締め、目に涙を溜めたまま少年に背を向けて走り出した
幼い少女の走る速度はさほど速くはない
それでも彼女は一生懸命走った
少年の意思を無駄にしないために・・・

『いたぞ!例の娘だ!!』

兵隊の声が聞こえる
「例の娘」とはもちろん由真のことだ
その声を聞いて由真は焦った

---早く逃げなきゃ・・・!

しかし幼い由真の足ではすぐに兵隊に追いつかれてしまうだろう
捕まるのは時間の問題だった・・・

『娘!止まれ!』

『来ないで・・・』

由真の声は今にも消えてしまいそうだった
涙を流しながら・・・どこに向かっているのかもわからずただまっすぐ走った

時々火の玉が飛んでくる
兵隊の中に魔道士でもいるのだろう

火の玉が由真の頬をかすめる

『やめて・・・来ないで・・・』

足に力が入らなくなってくる
フラフラと走る由真
さすがに幼い少女の体には限界がきていた

ドザッ

ついに転んでしまう由真
特に躓くものがあったわけではない
ただ、足に限界がきていたのだ
こんな幼い少女が限界がくるまで走り続けたことがあるだろうか?
おそらく初めてのことだっただろう・・・
もう足に力は入らなく、立ち上がれなくなってしまっていた

『いや・・・ ・・・ ・・・』

まもなく兵隊が追いついてきた

『さぁ、おとなしく来てもらおうか?』

少女の目に涙が溜まる
時折その涙は頬を伝って流れ落ちた

---もうダメ・・・殺されちゃう・・・

『さ、おとなしくしててくれよ?お嬢ちゃん』

兵隊が由真に手を伸ばす
由真の頭はパニック状態だった

『いや・・・やめて・・・ ・・・やめて・・・!』


--------------------------

『おい 大丈夫か?』

どこかで聞いたことのある声が聞こえた
何故か安心できる声・・・

『ぁ・・・爺・・・・・・?』

由真が目を覚ます
涙に目を溜めたままの由真の瞳・・・
ぼやけた視界に見えた人物は爺に似ていた

『爺?』

目の前の少年がキョトンとした顔をする

『ふぁ・・・・・・ ・・・あ?
 ・・・・・・・・・あぁぁっ!?』

視界と思考がハッキリしてきてこの場所が学校であったことに気づいた由真
彼女は飛び起きて目の前にいる少年と距離をとった
なんだか昨日と同じような光景である

---ああああれ・・・?ゆ、夢・・・!?
  ていうかこの人は・・・・・・!!

『あぁぁあのっ・・・いいいついつ・・・いつから・・・』

かなり動揺している由真
眼を覚ましたら目の前に人が居たのだから驚くのも無理はない
由真の顔は涙と冷や汗が混ざって頬を伝っている

『いや・・・ついさっきだが・・・
 大丈夫か?泣いていたようだが・・・悪夢でも見たのか?』

『い いえ・・・な なな・・・なんでも・・・ないですよ?アハハ・・・』

夢だとわかって安心したのか苦笑いを返す
しかし、いい夢ではなかった
そして・・・何気にシッポがピンと立ってしまっている

そこで由真はあることに気づいた

---爺じゃ・・・ない・・・?

爺と目の前の少年はどこか雰囲気が違った
別人である事実に気づき更に涙があふれてくる

『そうか  ・・・ならなぜ泣いている?』

『あ・・・ ・・・い、いえ・・・これは・・・これは違うんですよ〜』

急いで涙をふき取りながら誤魔化す由真
しかし・・・涙は逆にあふれ出るばかりだった

『あ・・・れ・・・?
 ど どうしたのかな・・・僕・・・・・・』

由真はペタンと地面に座り込んでしまい、
真っ赤になった顔を伏せ、涙を隠す

『ほ・・・ホント・・・なん・・・でもありません・・・からっ
 気に・・・しないで・・・』

『目の前で泣かれたんじゃ・・・放っておけないだろう?
 ほら、立てるか?』

手を差し伸べる少年
しかし由真は手を出さず・・・

『優しくしないで・・・
 爺・・・じゃ・・・ないん・・・だから・・・』

---そう・・・この人は爺じゃないんだから・・・

少年は何を考えたのか、由真の肩をつかんで彼女を立たせた

『あ・・・っ』

『す すまん
 痛かったか・・・?』

『い いえ・・・』

キョトンとした顔で少年の顔を覗き込む
・・・しばらくするとその瞳には涙が溜まってゆく・・・

『どうして・・・ どうして優しくしてくれるの・・・?』

『・・・いや、どうしてと言われてもな・・・』

『どうして・・・どうしてっ・・・
 あなたは・・・爺・・・翠でもないのに・・・っ!』

泣きながら叫ぶ少女
もはや周りの目など気にしていないのだろう
爺と別人だったため・・・
自分の会いたかった人とは別人だったため・・・
やり場のない怒りを彼にぶつけているようにも見えた
その怒りは・・・自分に対するものだというのに・・・

何を思ったのか・・・
少年はそんな由真の頭をクシャリとなでる

『ふぇ・・・?』

『そんなことを言うな
 男として・・・困ってる女の子を放っておくことはできないだろう?』

『・・・・・・本当に・・・翠じゃ・・・ないんだよね・・・?』

『翠? 俺は椿
 澤咲 椿だ』

『椿・・・さん
 ・・・・・・・・・やっぱり・・・翠じゃなかったんだ
 ・・・似てるのに・・・・・・・・・・・・』

悲しそうにそう呟いた
すると再び涙が出てきてしまう

---そう・・・だよね
  こんなところに爺がいるはず・・・ないもん・・・

『翠・・・ そいつは俺に似てるのか?』

『うん・・・とても』

それを聞くと少年は目を閉じて再び由真の頭をクシャリとなでる

『そうか・・・・・・
 なら、悲しい時は俺をその翠の代わりだと思っていい
 だから・・・もう泣くな』

『つ 椿さん・・・』


キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り響く
廊下が少々ざわついてきたようだ

『あ・・・それじゃ・・・僕・・・もう行きますね』

『あ・・・あぁ』

『僕・・・椿さんのおかげでなんだか元気が出ちゃいました
 ありがとうございます』

『あ・・・!ちょっと待て
 お前・・・名前は?』

『あ、はい  僕は由真
 猫塚由真です
 それではっ』

そう言うと由真は手を振って元気に駆け出した
由真が別れ際に見せた表情は・・・無邪気な笑顔だった
椿もそんな由真の笑顔を見て微笑み返すのだった

To be continued......


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