『どうして・・・ どうして優しくしてくれるの・・・?』


------Story04〜Tsubaki's Episode〜『猫耳と涙』------


『・・・む しまった』

刹那が姿を消してから一週間
何故か・・・クラスの雰囲気は変わっていない
別に刹那は孤立していたわけでもない
それなのに・・・今はまるで刹那がいてもいなくても同じような雰囲気が漂っている

--・・・一体・・・なんなんだこれは

--そんな状況で現社の教科書を忘れてくる俺も俺だが・・・
 この一週間・・・気が滅入ったままだったからな・・・
 そのせいかもしれない・・・・・・・・・

ヴーッヴーッ

突然携帯が鳴り出す

(・・・ん?メールか・・・
 誰だ? ・・・刹那!?)

メールの送信者は刹那だった
急いで教室をあとにして中庭に出る
一応・・・学校内で携帯をいじっているところを見つかるといろいろ面倒なため、
こういう時はいつも中庭に来るようにしている

そして刹那からのメールを確認する

「:YO! 元気か? 俺は元気だぜ」

(・・・無事だったのか のんきな奴だな・・・心配したんだぞ)

と思いつつ

「:無事だったのか  今どこにいる?」

とメールを返した

数分後・・・メールを受信した

「:どこかは・・・わからねぇ  とりあえず俺の知らないどこかだ
  ・・・まるでゲームの中にあるような風景だが・・・」

--どういうことだ・・・?

刹那の知らないところに刹那はどうやって行くことができたのだろうか?
あの時の爆発と何か関係あるのだろうか?

ヴーッヴーッ

続けてもう一通刹那からメールが届いた

「:悪ぃ ちと携帯の電源切るわ」

(ん? 何かあったのか・・・?)

疑問を浮かべつつ・・・
電源を切られたのでは連絡の取りようがないから深く考えないことにした

ふと時計を見るとすでに三時間目の授業が始まってしまっていた

(・・・仕方ない サボるか・・・・・・)

そういうわけで三時間目の授業はサボることにした
その間昼寝でもしようか、と思い場所を探す
さすがに窓から見つかるような場所ではダメだろう
そう思い、なるべく目立たない場所を探すことにした

場所を探して数分・・・

(このあたりでいいか・・・)

それなりによさそうな場所を見つけてそこに近づいていく
すると・・・どこからか

『すーっ・・・すーっ・・・』

そんな呼吸のような音が聞こえる

--誰かいるのか?

椿はその声がするほうへ近づいていく
そこには・・・

『すーっ・・・すーっ・・・』

・・・・・・少女が眠っているようだ
制服を着ているところから見ると同じ学校の生徒だろう
高等部の生徒だろうか

とても気持ちよさそうに眠っている

(こいつもサボりか・・・?)

気になった椿は更にその少女に近づく
少女の口がかすかに動いているようだ

『・・・も ・・・す』

(ん? なんだ・・・?)

少女に耳を近づけてみる
その距離わずか20cmといったところ

『ん・・・まり・・・も・・・ あい・・・す・・・』

(ん・・・?)

『むにゃ・・・まりもあいす・・・』

『マリモアイス?』

『へっ!?』

突然少女が目を覚ます
と同時にその場から飛びのいた
シッポがピンと立っている

--・・・ん?シッポ・・・?

そう
よく見ると少女にはシッポがある
ついでに猫のような耳までついている

『ああああのっ・・・いいいいつからそこにっ!?』

あんまり驚かれたものだから椿まで驚いてしまう

『あ・・・いや、すまん
 あんまり気持ちよさそうに寝てたもんだから・・・・・・』

『あ・・・あの・・・もしかしてずっと・・・?』

『いや・・・ついさっきだが』

『・・・・・・・・・・・・』

少女の顔が真っ赤になる

『あ・・・あうぅ・・・
 しっ・・・失礼しますっ!』

そう言うと少女は一目散に駆け出してしまった
走って追いかければ十分追いつけそうなのだが・・・
特に追いかける理由もなかったので、その場でその姿を見送る椿だった

『なんだったんだろうな・・・あの子』

首をかしげる椿だったが、昼寝をしようと考えていたせいか眠くなってきたので
そのことは気にせず寝ることにした

何気に・・・走り去った少女が居た場所で・・・・・・・・・・・・


〜翌日〜


--結局刹那と連絡は取れないままだったな
 一体何があったんだ・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

--そして何故俺はまたここに来てしまったんだ・・・

椿は昨日と同じ場所にまた来ていた
無意識のうちに昨日と同じ時間に来てしまったようだ
もちろんこの時間は三時間目の授業中
何気に授業をサボっていた

--気になるのか?あの子のことが・・・

特徴的すぎるあの耳・・・あのシッポ
最近のことだからコスプレということも考えられなくもない
しかし・・・あのピンと立ったシッポはコスプレのものではなさそうである

・・・となると、本物なのかと疑いたくなる
・・・・・・が、本物の猫の耳とシッポがついた人間がいたであろうか?

--いるはず・・・ないよな

そう思いつつ自然と足が動いてしまい・・・あの場所にたどり着く

『すーっ・・・すーっ・・・』

『あ・・・』

--いた・・・

あの猫のような耳にシッポ・・・
間違いない
昨日のあの少女である
昨日と同じように気持ちよさそうに寝ている

気持ちよさそうに寝ている・・・ように見えたのだが

『ん・・・んぅ・・・来ない・・・で・・・』

そんな言葉を耳にした椿は反射的に一歩下がった
そのすぐ後にそれが寝言だということに気づき、
その少女に再び近づいてみる

『やめて・・・来ないで・・・』

--寝言・・・だよな

そうわかっていても目の前でそんなことを言われたらなんだか近寄り難い
しかし少女の口からは寝言にしては大きすぎる声で言葉が発せられている
少し距離を置いても十分聞こえそうだ

『いや・・・ ・・・ ・・・』

--あ・・・・・・

よく見ると少女の頬に水が伝ったような形跡がある
そんな少女の顔を見つめていたら・・・

つーっ・・・

少女の瞳から一筋の涙が流れた
静かに頬を伝う涙
更にもう一筋・・・涙が流れ続ける

『いや・・・やめて・・・ ・・・やめて・・・!』

--一体何の夢を見ているんだ・・・?

眠りながら泣く少女に近寄る椿
そして肩に手をかけ・・・

『おい 大丈夫か?』

と・・・できるだけ優しく声をかけた
すると少女は静かに目を開き・・・

『ぁ・・・爺・・・・・・?』

そう言った

『爺?』

当然のように聞き返してしまう椿
高校二年生の少年に対して『爺』と言うのはあまりにもおかしい
というか失礼じゃないだろうか?

『ふぁ・・・・・・ ・・・あ?
 ・・・・・・・・・あぁぁっ!?』

飛び起きる少女
その様子に椿まで驚いてしまう
なんだか昨日と同じ光景である

--デジャヴか・・・?

『あぁぁあのっ・・・いいいついつ・・・いつから・・・』

少女はかなり動揺しているようだ
眼を覚ましたら目の前に人が居たのだから驚くのも無理はない
少女の顔は先ほどの涙と冷や汗が混ざって頬を伝っている

『いや・・・ついさっきだが・・・
 大丈夫か?泣いていたようだが・・・悪夢でも見たのか?』

『い いえ・・・な なな・・・なんでも・・・ないですよ?アハハ・・・』

明らかに苦笑いといえる笑いを返す少女
何気にシッポがピンと立っている

『そうか  ・・・ならなぜ泣いている?』

『あ・・・ ・・・い、いえ・・・これは・・・これは違うんですよ〜』

急いで涙をふき取りながらそう言う少女
しかし・・・涙は逆にあふれ出るばかりだった

『あ・・・れ・・・?
 ど どうしたのかな・・・僕・・・・・・』

ペタンと地面に座り込んでしまい、
真っ赤になった顔を伏せ、涙を隠す少女

『ほ・・・ホント・・・なん・・・でもありません・・・からっ
 気に・・・しないで・・・』

『目の前で泣かれたんじゃ・・・放っておけないだろう?
 ほら、立てるか?』

手を差し伸べる椿
しかし少女は手を出さず・・・

『優しくしないで・・・
 爺・・・じゃ・・・ないん・・・だから・・・』

--だからその「爺」ってなんなんだ・・・?

しかしとりあえず泣き止んでもらわないと話どころじゃなさそうだったため、
肩をつかんで少女を立たせる

『あ・・・っ』

『す すまん
 痛かったか・・・?』

『い いえ・・・』

キョトンとした顔で椿の顔を覗き込む少女
・・・しばらくするとその瞳には涙が溜まってゆく・・・

『どうして・・・ どうして優しくしてくれるの・・・?』

『・・・いや、どうしてと言われてもな・・・』

『どうして・・・どうしてっ・・・
 あなたは・・・爺・・・翠でもないのに・・・っ!』

泣きながら叫ぶ少女
もはや周りの目など気にしていないのだろう
もっとも・・・今は授業中のため、二人以外に誰もいないのだが

何を思ったのか・・・
椿はそんな少女の頭をクシャリとなでる

『ふぇ・・・?』

『そんなことを言うな
 男として・・・困ってる女の子を放っておくことはできないだろう?』

『・・・・・・本当に・・・翠じゃ・・・ないんだよね・・・?』

『翠? 俺は椿
 澤咲 椿だ』

『椿・・・さん
 ・・・・・・・・・やっぱり・・・翠じゃなかったんだ
 ・・・似てるのに・・・・・・・・・・・・』

悲しそうにそう呟いた
すると再び涙が出てきてしまう

『翠・・・ そいつは俺に似てるのか?』

『うん・・・とても』

それを聞くと椿は目を閉じて再び少女の頭をクシャリとなでる

『そうか・・・・・・
 なら、悲しい時は俺をその翠の代わりだと思っていい
 だから・・・もう泣くな』

『つ 椿さん・・・』


キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り響く
廊下が少々ざわついてきたようだ

『あ・・・それじゃ・・・僕・・・もう行きますね』

『あ・・・あぁ』

『僕・・・椿さんのおかげでなんだか元気が出ちゃいました
 ありがとうございます』

『あ・・・!ちょっと待て
 お前・・・名前は?』

『あ、はい  僕は由真
 猫塚由真です
 それではっ』

そう言うと由真は手を振って元気に駆け出した
由真が別れ際に見せた表情は・・・無邪気な笑顔だった

To be continued......


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