『俺は・・・ありすの兄だ
 理由はそれだけだ・・・』


------Story02〜Tsubaki's Episode〜『異形の者』------


カツ・・・カツ・・・カツ・・・
足音が響く夕方の校舎
二人の少年が廊下を歩いている
足音がよく聞こえるほど・・・校舎は静かだった

・・・・・・・・・・・・・・・
足音が聞こえなくなる
どうやら3-Bの教室の前で止まったようだ

『どうした?椿』

不思議に思った刹那は椿に問いかける
先に足を止めたのは椿のようだ
椿は窓から夕日を眺めながら・・・

『いや・・・なんかおかしくないか?』

難しい顔をしてそう答えた
刹那はキョトンとした表情のまま辺りを見回す

『おかしいって・・・何が?』

椿の顔を見る
彼の顔は相変わらず難しい表情のままだった
冗談で言っているようには思えない
というか・・・「何がおかしいのか」さえわからない
つられて刹那も難しい表情になってしまう

『・・・静かすぎると思わないか?』

夕日を見つめたまま・・・椿は静かにそう言った
現在PM4:00
生徒の声が聞こえてもいい時間帯だ
それなのに・・・足音が聞こえるほど静かなのである
外を見ると確かに生徒の姿はある
部活中のようだ
しかし・・・声どころか・・・物音すら聞こえない
部活中の生徒が休憩中であるわけでもない
確かに活動中だ
見ているだけでも掛け声が聞こえてきそうなくらいなのに・・・
何も聞こえないのだ

『確かに・・・静かだな
 それがどうかしたのか?』

『何も物音が聞こえないなんて・・・おかしいだろ?
 普通・・・この時間帯はにぎやかなはずだ
 何気に・・・この廊下にも人影が全くないしな』

『言われてみれば・・・そうだな』

刹那も異変に気づいたようだ
気づいたが・・・状況がよくわからない
難しい顔をしているが・・・刹那の頭ではクエスチョンマークが出ていた

『つまり・・・どういうことなんだ?これは』

状況がよくわからなかったので椿に問いかけてみる
普通こんなことは起こらないはず
特にこの校舎に防音機能がついているわけではない
全く人気がない廊下・・・
外部からの音が一切聞こえない・・・

『よくわからないが・・・
 まるで俺達の居る場所だけが別の空間のようだ・・・』

冗談抜きの真面目な顔で椿は答えた
それを聞いた刹那は

『ここだけ別の空間?
 ・・・んなことあるわけないだろ
 漫画の読みすぎだぜ・・・椿』


『そんなことがあったら・・・どう思う?』


椿と刹那以外の男性の声が聞こえた
不思議と迫力のある声だった

声は廊下の奥の方から聞こえてきた
椿たちの正面方向からである
何故か・・・その方向は電灯が消えた夜の廊下のように真っ暗だった

『!?』

ふと気づいて辺りを見回してみると・・・
黒い霧に包まれたかのように辺り一面が真っ暗になっていた

『な・・・なんだこれは・・・!?』

驚く二人
かつてこんな状況に遭遇したことは一度もなかったが・・・

---やばい・・・

それだけはハッキリしていた
男が近づいてくる
男との距離が残り3mまで近づいた時・・・

『何を言っている?
 今・・・お前が言ったではないか
 「ここだけが別の空間のようだ」・・・と』

暗いせいか男の顔が見えない
ただ・・・いろんな意味で大きいことは明らかだった           

身長・・・迫力・・・存在感・・・

この男は一体何者なのだろう
もちろん、椿も刹那も男のことは知らない

『どうした?
 俺が恐いのか?』

挑発気味に男が言う
「恐くなどない」
そう言いたくても・・・周りの雰囲気が恐怖感を漂わせている
周りが見えない暗闇にいると思うと・・・恐くなってしまうものだ
この男のことが恐いのではない
この場所が恐いのだ・・・

『・・・あんたは・・・誰なんだ?』

刹那が男に問いかける
すると男は鼻で笑うように

『知ってどうする?
 別に知る必要などない・・・』

そう答えた
そして男は指をパチンと鳴らすと、
床からスライムのような原形をとどめていない「異形の者」が現れた

『な・・・!?』

『何を驚いている?
 お前達がゲームでよく見ている「スライム」となんら変わりのないものだ
 珍しいわけでもないだろう?』

---現実で出てきたら誰でも驚くぞ・・・

椿はそう呟きたかった・・・
・・・が、今は第六感が危機を察知している
のんきなことを言ってる場合ではない

『椿・・・どうする?』

『・・・戦うわけにもいかないだろう
 逃げるか・・・?』

『俺・・・逃げるのは嫌いだぜ』

『そんな状況じゃないだろ』

こんな会話をしているうちに・・・
異形の者・・・スライムは椿たちに迫ってくる
移動速度はたいしたことがないものの・・・
あんなものが近づいてきたら恐いものだ

『逃げられると思うな
 澤咲 椿・・・お前だけは・・・逃がさない』

男が闇の中からそんなことを言うのだった
「逃がさない」
その言葉には・・・なにか怒りのようなものが込められていた

『あの種族と・・・お前の種族が交わってはいけないのだ
 だから・・・ここでお前を始末しなければならない
 どうやら生き残りとお前はどういう経緯なのか「兄妹」関係らしいからな・・・
 いつ交わってもおかしくない・・・』

椿は知らずとも・・・どうやら大変なことになっているらしい

---生き残り・・・?
  なんだそれは・・・?
  俺と「兄妹」だと・・・?
  それって・・・ありすしかいないじゃないか!

『どういうことだ!?
 ありすが・・・生き残りだと?』

『ありす▼・・
 生き残りの名前はありす≠ニいうのか・・・』

---何だと?
  コイツ・・・名前を知らなかったのか・・・?

『まあいい
 生き残りの捕獲と澤咲 椿の消滅・・・
 それさえ済ませれば問題ない』

---俺の消滅・・・だと?
  コイツ・・・俺を殺す気なのか・・・!?

『なぁ椿・・・
 とんでもないこと言われちまってるが・・・何したんだお前・・・?』

椿は何も答えない
無視しているわけではない
自分の危機に・・・他の声が聞こえなくなってしまっているのだ

『椿・・・』

刹那は不安そうに見つめることしかできなかった
ただ・・・悔しかった
「親友の危機に俺は何もできないのか!?」・・・と

『澤咲 椿・・・
 お前がおとなしく生き残りのありす≠渡すなら見逃してやってもいい
 命だけは助けてやろう  ・・・どうする?』

選択を迫られた
椿の答えは聞かずとも・・・はじめから決まっていた

『・・・ありすを渡せ≠セと・・・?
 するはずないだろ・・・
 妹をおとなしく渡す兄がいると思うか!?』

『フン・・・
 生き残りを妹だと思っているのか・・・
 だがな・・・人間とは醜いものだ
 自分の命がかかっていると思えば・・・簡単に渡してしまうのだ
 たとえ・・・血のつながった家族でもな』

『俺は違う!
 ありすは・・・俺の妹だ!
 渡しはしない・・・』

椿は真剣だった
彼の鋭い視線が男に向けられる
その時・・・一瞬だけ男の表情が見えた
落ち着いた言葉を発していたわりには・・・焦りの見られる表情だった

『何故・・・そこまで真剣に違うと言い切れる・・・?』

『俺は・・・ありすの兄だ
 理由はそれだけだ・・・』

『くっ・・・ この力は・・・!』

椿の体からオーラのようなものが発生している
それを見た男は冷や汗をかき・・・

『凪も退いたのか・・・ 仕方ない・・・
 フン・・・ 今日のところは俺の分が悪い・・・見逃してやる
 その命・・・無駄にするな』

そう言うと男は闇の中へ消えていった
そして・・・いつも通りの校舎に戻る
夕焼けに照らされた廊下・・・
部活動を頑張る生徒の声が聞こえる

『なぁ・・・椿
 アイツ・・・なんだったんだろうな』

『さぁな・・・』

結局・・・最後まで男の正体は謎のままだった
ただ・・・静かに呟いた『凪』という名前だけが手がかりだろう

『ところで・・・』

『なんだ?』

刹那はやや真剣な目で・・・

『交わるって・・・あ〜いうことなのか?』

『あ・・・あ〜いうこと?』

椿の顔が少し赤くなる
何を想像したのだろうか
それを見た刹那はニヤケた表情で追い討ちをかけた

『よく恋人同士がやる「接吻」とかいうやつ・・・』

『!!
 そ、そんなわけないだろ!?』

椿の顔が真っ赤になる
刹那は笑いながら

『ハハハ  冗談だってじょーだん』


『咲華・・・咲華!』


ふと・・・教室の中から妹・・・ありす≠フ声が聞こえた
そして二人は教室に足を踏み入れる・・・

To be continued......


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