『唯緒はん・・・まだどすか?』

『・・・もう少しだけ・・・待ってください 璃音・・・』

『前にそう言ってからもう三ヶ月は経ちましたえ?
 あと一週間・・・ それが限界どす』

『一週間・・・・・・・・・』

『そう 一週間
 もう時間がありまへん
 ・・・早うしまへんと・・・あやつが目覚めてしまいますえ』

『・・・・・・・・・・・・』

『残り一週間以内に・・・蒼炎の太刀≠修得すること・・・
 それができへんかったら・・・剣を捨ててもらいます』

『なっ・・・、そ・・・そんな・・・』

『嫌なら・・・修得しはることやな』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『時間が・・・ない
 もう・・・・・・私には・・・時間がありません・・・
 早く・・・早く奥義を修得しなければ・・・
 そのためには・・・あの人を連れ戻さないと・・・』


------Story12〜Claus's Episode〜『技無き者〜再来〜』------


キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、廊下にたくさんの生徒が群がる
その場で立ち話をする生徒、すぐに帰ろうと昇降口へ向かう生徒、そして部活へ向かう生徒・・・
その中にいたクラウスは「すぐに帰ろうと昇降口へ向かう生徒」に分類される
彼女の近くには由真の姿もあった

『楓ぴょんてばどこ行っちゃったんだろうねぇ?
 教室にもいないし・・・見たところ廊下にもいなさそうだし・・・』

『・・・どこ行っちゃったんでしょうね
 ついさっきまで隣の席に座ってたのに・・・』

どうやら楓のことを探しているようだ
いつも二人と一緒にいる楓だが、今日に限ってその姿が見当たらない
クラスは同じなので教室か近くの廊下にいるはずなのだが・・・
チャイムが鳴ってからさほど時間が経過したわけでもない
この短時間で別の場所へ行ったのならば急ぎ足で向かったことになる

『トイレかな?』

そう考えた由真はトイレの方へ向かい、男子トイレを覗こうとして・・・

『だ、ダメですよ由真さん!!』

クラウスに止められた

『や、やだなぁ 冗談だよじょーだん』

苦笑いを浮かべながら由真が答える
そして再び考え込んでしまう
「もしかしたら何か用事があって先に帰ってしまったのかもしれない」
そう考えた二人は昇降口へ向かうのだった

『楓ぴょんがぼくらに何も言わずに帰っちゃうなんて珍しいね』

『そうですね・・・
 今までこんなことなかったのに・・・あぅぅ』

『まぁ・・・そーゆー時もあるのかな
 楓ぴょんも男の子だからね』

どういう理屈なのだろう?
いい加減な理屈に疑問を浮かべるクラウス
「きっと男の子にしかわからないんだろう」
とりあえずそう納得しておくことにした
・・・しかし何故由真にはわかるのだろうか?
考えれば考えるほど疑問は深まるのだった

『・・・まぁ、気にしないで
 ふと思いついたいい加減な理屈だから』

突然黙り込んでしまったクラウスに由真が声をかける
どうやら考えても仕方のない疑問だったらしい
クラウスは真剣に考えていたことが恥ずかしくなり、顔を赤らめてうつむいてしまうのだった
由真は冗談っぽく彼女に謝るのだった

『お師匠様ホントに帰っちゃったのかな・・・』

昇降口につき、念のため下駄箱を確認してみる
下駄箱には予想外にも楓の靴がまだ残っていた

『あれれ? 楓ぴょんの靴まだ残ってるよ』

『え? ・・・ということはまだ校舎に?』

『・・・みたいだねー、どーする?』

楓を待つかそのまま帰るか・・・
二択の選択がある
クラウスはそわそわしながら楓の下駄箱をちらちら見ていた

『あー・・・はいはい 待つのね』

そんなクラウスの様子から答えを察した由真
特に用事があったわけでもないのでクラウスと一緒に楓を待つことにした

『・・・教室で待ってた方がよかったでしょうか・・・』

『・・・・・・いや、別にいいんじゃない?
 結構時間経ってるし・・・すれ違いがあるかもしれないから
 ここなら絶対通ることになるし、ここで待ってようよ』

そして二人は静かに待っていた
通行の邪魔にならないように端の方で待機している
そんな間にも時間は経過していき、その場に待機し始めてから約15分が経過した頃・・・

『・・・もう帰っちゃおっか?
 楓ぴょん来ないし・・・』

『え? そ・・・そんな・・・も、もう少し待ちましょうよ
 まだ靴残ってますし・・・絶対来ますよ』

『なーんかもう面倒だよ〜・・・
 あと10分しても来なかったらぼく帰る・・・』

『そんなー・・・』

あんまり退屈でだんだん嫌になってきた由真
そんな時・・・

『あ、楓ぴょん・・・』

『え・・・』

昇降口へと続く廊下を歩いてくる楓の姿を発見した
「ようやくこの退屈から開放される」とばかりに由真は楓に駆け寄ろうとする
・・・が、彼の隣に誰かいるのに気付いて足を止めた

『お師匠さもふっ・・・』

廊下へ飛び出しかけたクラウスの口を両手で塞ぐ由真
そしてそのまま今まで待機していた場所へ引きずり戻す
そして壁に背を向けて、まるで刑事の尾行捜査中のような状態になる
クラウスは口を塞がれたままハテナ顔で由真を見つめる
由真は楓のいる方向へ視線を向けたまま

『しっ!静かに』

とクラウスに告げた
状況を把握できていないクラウスはハテナ顔のまま廊下に視線を向ける
そこで彼女が目にしたものは・・・楓と澤咲ありすの姿だった

『・・・おふぃふょーふぁま!?』

『ちょっ・・・黙って見てて』

口を塞いだままだったのでどうやらクラウスの声は聞かれなかったらしい
あんまりきつく塞いでいたせいか、クラウスの呼吸が苦しそうだったのでとりあえず口は開放した

『ぷはっ・・・ はぁ・・・・・・はぅ・・・
 あれはお師匠様とありすさん・・・?』

『みたいだねー
 何話してるんだろう・・・』

『まさか・・・』

クラウスが不安そうな表情を見せる
その一方、楓とありすは楽しそうに会話している
クラウスはそわそわしてその様子を眺めていた

『クラちゃん・・・トイレなら我慢しない方がいいよ?』

『ち、違いますっ!』

『大丈夫・・・楓ぴょんに限って・・・そーゆーのじゃないと思う
 だから心配することないよ』

『え?』

『ほら、楓ぴょん頼りないしさ
 女の子に声かけるので精一杯なんだから』

『そ・・・それは・・・そうかも・・・
 い、いえ! そんなことないです・・・』

『・・・あれ?
 水無月さんにユマりん・・・?』

『『ひゃぁ!?』』

いつの間にか楓が二人のところに来てしまっていたらしい
突然の不意打ちに声をそろえて驚く二人であった

『おおおおおしょっ・・・』

クラウスの動悸が激しくなる
どうやら相当驚いてしまったらしい

『あ・・・ゴメン、ビックリした?』

『・・・もう!
 心臓に悪いよ楓ぴょん!!』

『ゴメンゴメン
 ・・・で、まだ帰ってなかったんだね 二人とも』

『何言ってるのさ!
 楓ぴょんのことを待ってたんだよ・・・ずっと!』

由真がむっとした顔をする
クラウスの動悸はまだ落ち着かないようだ

『あ・・・そうだったんだ
 ゴメン・・・てっきり二人とも帰っちゃったのかと思ってた』

『まったく・・・ 何も言わずにいなくなってたから心配してたんだよ?』

『いやぁ・・・ちょっとやることがあったんだよ
 ・・・一言断っておくべきだったね ゴメン・・・』

『あんまり謝られても困るなぁ・・・』

この短時間に5回は謝ったであろう
あんまり連発していると本当に申し訳なく思っているのか怪しいところだ

『じゃ、私・・・帰りますね』

『あ、うん 気をつけて』

ありすはペコリと礼をすると、ゆっくりと下駄箱の方へと向かっていった
三人はその姿を静かに見送る
クラウスの動悸もなんとか落ち着き、三人は学校を後にした

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

『澤咲ありすさんねぇ・・・』

帰り道で楓がポツリと呟いた
夕焼けに染まった空を見上げて何か考えているようだ

『そういやあの人と何の話してたの?楓ぴょん』

『ん? いや・・・別になんでもないよ?』

『え〜? ・・・怪しいなぁ〜?』

『だからなんでもないってば
 ふあぁ・・・』

あくびをする楓
ハッキリとした返答をもらえず、少しばかり頬を膨らませる由真

『ありすさん・・・可愛かったですね』

そんな時にクラウスがボソッと囁いた

『うん ・・・え!?』

ボ〜っとしていたのか素直に返事をしてしまいあたふたする楓
それに対してクラウスは楓から目を背けてそっぽを向いていた

『にゃにゃ?楓ぴょんてば・・・ありすちゃんに一目惚れ?』

『ちょちょ・・・ちょっ・・・待っ・・・
 なんでそうなるの!?』

『あ〜 赤くなってる〜
 図星だ図星〜!』

『いやいや待て待て!
 なんでそういう話になるんだ!?』

『だって〜 ねぇ?
 楓ぴょんの周りって・・・女の子ばかり・・・』

『・・・え゛』

『まずぼくでしょ? そしてクラちゃん
 で、昨日会ったありすちゃんに咲華ちゃんにマリアちゃん
 ・・・あ、ちょっと前に中庭で女の人に襲われた・・・とかも言ってたっけ?』

ニヤニヤしながら由真がからかう
楓は頭を抱えている
何かブツブツ言っているようだが聞き取れない

『お師匠様・・・モテモテですね』

そっぽを向いたままクラウスが口を開く
その言葉は少し震えていた

『・・・いや、モテるとかそういうのじゃない・・・と思うんだけど
 水無月さんとユマりん以外の人とは全然・・・親しくないし』

『・・・でもみんな可愛い人ばかりだったじゃないですか』

『い・・・いや・・・
 そりゃあ・・・「可愛くない」なんて言えないけどさ・・・・・・』

『ほら・・・やっぱりそうなんじゃないですか』

『水無月さん・・・もしかして怒ってる?』

『どうして私が怒るんですか?』

そっぽを向いたままのクラウス
楓が顔を覗き込んでもクラウスは目を逸らす

『いや・・・よくわかんないけど・・・怒ってる・・・よね?』

『怒ってません』

『・・・だっていつもと雰囲気が・・・』

『怒ってません!』

意外な大声にたじろぐ楓
由真はぽかーんとしていた

『・・・・・・それではお師匠様、由真さん・・・また明日』

そう言うとクラウスはツカツカと早足でその場を後にした

---お師匠様の・・・バカ・・・

クラウスは無言で道を進んでいくのだった
そんな彼女の表情は・・・少しだけ寂しそうだった

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

二人と別れてからしばらく歩き続けた
別れた場所から家までの距離はそんなに離れてはいなかったのだが、
クラウスは家に帰らず・・・その周辺をツカツカと歩いていた
もちろん行く当てがあるわけではない
ただ・・・まっすぐ家に帰る気になれなかった

さらに歩き・・・いつの間にか公園の中を歩いていた
何か悩み事があったりしたときはいつもここに来ていた
この公園ののどかな雰囲気が心を和ませてくれるのだった

---どうしよう・・・
  大声を上げるつもりなんて・・・なかったのに・・・

木陰のベンチに腰をかける
そして顔を伏せてそのまま震えていた

---なんだろう・・・このモヤモヤした感じは・・・
  ・・・・・・・・・今までこんなこと・・・なかったのに・・・

『何かあったようですね?』

『・・・!?』

突然声をかけられて驚くクラウス
声がした方を振り向くとそこには少し前に会ったノンスキルの姿があった
声をかけられるまで気がつかなかった
それまで人の気配なんか全く感じなかったはずなのに

『な、何の用ですか・・・?』

ノンスキルに恐る恐る訊ねる
警戒しているクラウスに対して、彼は涼しげな笑みを浮かべていた

『連絡待ってたんですよ?クラウスさん』

『・・・・・・・・・』

『まぁ・・・今はそれどころじゃない・・・といった様子ですね
 そんな調子では今回の伝言を伝えにくいですね・・・』

『伝言・・・ですか?』

『まぁ、伝言は置いておいて・・・
 何かあったんですか? 話だけなら聞いてあげますよ』

クラウスの隣に座るノンスキル
殺気は感じられなかったので、心を落ち着かせて再びうつむいてしまうクラウス

『まぁ・・・無理に聞いたりするつもりはありませんが』

『・・・喧嘩』

『ん?』

『親しい人と・・・喧嘩・・・というわけじゃないんですけど・・・
 例えば・・・ある女の子が親しい人にイラついた態度をとってしまったとします
 でもその子はそんな態度をとるつもりはなかった・・・
 それでもそれを説明しにくくて・・・その子は一人迷ってしまいます
 もしそれが自分だったとしたら・・・ノンスキルさんはどうしますか?』

静かに口を開いたクラウス

この人を信用してもいいのだろうか?
自分はこの人のことはほとんど何も知らない・・・
ましてや彼は自分をあの蒼神流道場に連れ戻そうとしている人物・・・
どちらかといえば自分の敵である・・・
そんな人にこんな話をするべきなのだろうか・・・?

いろいろな思考がクラウスの頭を駆け巡ったが、今はそんなことはどうでもよかった
ただ・・・この複雑な気持ちから解放されたかっただけ・・・

『喧嘩・・・ あなたのお師匠様は別にそれくらいで怒るような人じゃありませんよ』

『え・・・ な、なんでお師匠様だってわかったんですか・・・?』

『・・・あなたを見ていれば大体わかります』

『そ・・・そうですか・・・
 そんなに・・・私わかりやすいですか・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・
 本当のことを言うと・・・彼とは昔の友人でしてね
 まぁ、あまり気になさらないでください』

『お師匠様の友人・・・ですか・・・?』

ノンスキルはゆっくりと立ち上がり背伸びをする
そしてクラウスの方を振り返り、こう言った

『いつも通りに接していれば大丈夫ですよ
 彼のことだから・・・結構気にしているかもしれませんが・・・
 もう・・・同じ過ちは二度と繰り返さないと思うから・・・・・・・・・』

『え・・・?』

『彼はあなたのことを大切に思ってる・・・
 だから元気出してください
 あなたが笑顔なら・・・きっと彼も笑顔で微笑み返してくれますよ』

そう言ってノンスキルは微笑むのだった

---お師匠様が私のことを・・・大切に思って・・・る・・・?
  私が笑顔なら・・・お師匠様も微笑み返してくれる・・・?

『まぁ、彼・・・鈍いから・・・嫉妬してしまうのも仕方ないでしょうけど』

『な・・・なんですか嫉妬って!?
 そそそ・・・そんな嫉妬だなんて私・・・』

『クス・・・ まぁ頑張ってください
 では僕はこれで・・・』

そう言い残してノンスキルはクラウスに背を向けて歩き出す
そこでふと立ち止まり・・・

『あ・・・つい言い忘れるところでした
 明日・・・蒼神流道場に来てもらえますか?』

『え? ど、道場・・・』

『道場の現当主があなたに用があるそうですよ
 ・・・くれぐれも・・・逃げたりしないでくださいね』

『逃げないで・・・とは・・・?』

『・・・おそらく戦うことになると思いますから』

『! い、いきなりそんなことを言われても・・・』

『伝言は確かに伝えました
 僕の本来の用件はこれだけです
 それでは・・・また明日』

そしてノンスキルは去っていった

『そんな・・・・・・
 ・・・・・・どうしよう いきなり「戦う」なんて言われても・・・』

しばらく沈黙が流れた
クラウスはずっと下を向いたままで・・・しばらく考えていた

---ノンスキルさんは・・・無理矢理にでも私を連れて行こうとするはず
  直接話さないと・・・わかってくれないのなら・・・
  それなら・・・正面から向かい合っていくしかないのね・・・

『明日・・・行くしか・・・ないわね・・・』

クラウスは立ち上がり、蒼天華を鞘から抜く
そして光を反射するほどに磨きこまれた刀身を眺める

---蒼神流・・・それほど私を連れ戻そうとする理由って・・・一体・・・

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

そして翌日・・・
クラウスは楓の下駄箱に一枚の手紙を残し、道場へと向かっていくのであった
To be continued......


Back



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送