『兄の命を奪ったあなただけは・・・許せない・・・ 絶対に』

兄を失った悲しみ・・・
事実を受け入れられなくて・・・ただ泣き続けていたあの日・・・
どんなに泣いても兄は帰ってこない・・・
そんなことはわかっていた・・・
でも、その涙は止まらなくて・・・
ただ泣き続けることしかできなかった一年前の記憶・・・


------Story08〜Claus's Episode〜『真の仇』------


『あなたから来ないのなら・・・私からいくわ
 あなたに戦う意思があろうとなかろうと・・・関係ない
 私が復讐するだけの話だから・・・』

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

わずかな沈黙
二人は向かい合ったまま・・・相手の目を見つめ合ったまま動かない

シュッ

澪の刀が空気を斬り裂く

『おしゃべりは終わり・・・
 いくわよ クラウス・・・
 ・・・覚悟!』

澪が刀を振り下ろす
「ガキィィン」という音が響き渡る

『やっと刀を抜いたわね・・・』

反射的に刀を抜いてしまったクラウス

---ダメ・・・  澪に攻撃なんてできない・・・

攻撃を続ける澪
クラウスはその攻撃すべてを刀で受け止めていた

『相変わらず・・・といったところね
 頭にくるわ・・・そういうの・・・・・・』

クラウスは攻撃を受け止めるだけ・・・
澪の攻撃は止まらない

---このままじゃキリがない・・・
  どうすればいいの・・・・・・?

ふと澪が軽くバックステップをとり、クラウスとの距離を置く
そして刀を構え静かに呟いた・・・

『奥義・・・斬空の太刀』

「ギィィィィィン」
クラウスの刀に衝撃が走った

---この技は・・・!

奥義「斬空の太刀」
その名の通り空を斬り裂く技である

『く・・・っ』

受け止めるだけで精一杯のクラウス

『どう・・・? 私も腕を上げたのよ
 ・・・・・・だから、本気で・・・戦って クラウス』

『そんなこと・・・できないわ』

『・・・・・・・・・・・・
 クラウス・・・あなたはいつもそうだった・・・
 どれだけ戦いを申し込んでも本気で戦ってくれなかった・・・
 それなのに・・・・・・いつもあなたは勝ち続けていた』

『でも・・・澪に怪我をさせたらいけないと思って・・・』

『たまには真剣に勝負してくれてもいいじゃない!
 私・・・頑張ったのよ・・・  あなたを超えたかったから・・・
 それなのに・・・・・・!』

澪の瞳から涙があふれ出る
しかし澪は攻撃の手を休めない
クラウスは受け止めながら最善の策を考えていた

---せめて・・・澪を止めるとしたら一撃にかけるしかない・・・
  でも・・・下手をすると澪が・・・・・・
  ・・・・・・どうすればいいの

涙で視界が歪んだのか澪の太刀筋が荒くなってくる

『・・・これまでよ、クラウス
 奥義・・・!』

刀を大きく振り上げる澪

---!!

クラウスはその一瞬の隙を見逃さなかった

『奥義・・・一の太刀!!』

「ズバァッ」
斬れ味の良さそうな音が聞こえた

奥義「一の太刀」
一撃に力を籠め・・・一撃に全てをかける技
命中する確率は低いがその威力は大きい

そんな技を繰り出したのは澪ではなく・・・クラウスだった

『・・・・・・ぁ・・・』

澪は刀を落とし、その場に膝をついた
クラウスは静かに刀を鞘におさめる

『澪・・・大丈夫・・・?』

澪は泣いていた
地に手をつき・・・うつむいたまま泣いていた

『なんで・・・どうして・・・
 いつも・・・いつも・・・』

『澪・・・・・・・・・』

その後、澪はしばらく黙って泣いていた
数分が経過した後・・・澪が静かに口を開いた

『復讐なんて・・・するべきことじゃないのはわかってた
 でも・・・・・・それ以外に何をすればいいのか分からなかったの・・・
 ・・・憎しみが・・・消えなかったから』

『・・・・・・』

『私・・・馬鹿だから・・・・・・・・・
 復讐してどうなるかなんてわからなかった・・・・・・
 でも他にどうしたらいいかわからなかったの!
 私はどうすればいいの!?』

クラウスは何も言ってあげられなかった
本当に彼女の兄を殺したのが自分だとしたら・・・
そんな人間からの慰めなんて・・・相手の怒りを増幅させるだけだから・・・
でも・・・黙っているのも苦痛だった

『・・・・・・復讐すること以外考えられなかったの・・・
 一年前のあの日から・・・ずっと・・・それだけを考えてた』

『私が憎いなら・・・・・・斬ればいい』

クラウスは静かに一言・・・そう言った
意外な一言に驚く澪

『な、何を言ってるの・・・?
 「私を殺してください」と言ってるようなものじゃない・・・』

『私を斬って気が済むのなら・・・斬ればいい
 私のせいでこうなったんだとしたら・・・私はこうするしかないから・・・』

クラウスは静かに目を閉じた
そして持っていた愛刀を地に置いた

『違う・・・違う・・・ そんなのじゃない・・・』

澪の顔が青ざめる

『私は・・・そんなあなたに復讐するために来たんじゃない・・・
 私は・・・私は・・・  ・・・兄さんを斬った・・・悪魔のような女に・・・復讐するために・・・』

「悪魔のような」などと言われてしまい少しカチンときたクラウス
「私がいつ悪魔になったっていうの・・・」
心の中でそう呟いていた

『違う・・・ あなたは・・・あの時のクラウスと違う・・・
 ・・・・・・あの時のクラウスは・・・兄さんを惨殺した悪魔・・・
 ・・・悪魔に見えたのに・・・  何故・・・・・・』


『その悪魔は・・・こんな顔をしていたかしら?』


澪の背後から女性の声が聞こえた
反射的に澪は振り返った
今までまったく気配を感じなかった・・・
突然後ろに現れた人物・・・それは・・・・・・

『クラウス・・・・・・?』

水無月クラウスの姿だった
クラウスは確かに正面にいたはずなのに・・・
おかしいと思い再び振り返る澪
すると・・・驚くべきことにそこにもクラウスがいた

『な・・・!?』

クラウスが二人・・・
澪を挟むような形で前後に立っている
澪の前方にいたクラウスは澪の様子がおかしいのに気づき目を開ける
そこでもう一人の自分を見つけて驚いた

『・・・・・・!?』

逆に澪の後方にいるクラウスは驚いた様子はなく、
相手を見下すような目で澪を見ていた

『何を驚いているの?
 今あなたが言ったじゃない?「悪魔」・・・と』

『そ・・・そんなありえないわ!
 あなたは・・・・・・誰・・・なの・・・』

『あなたが私のことを「悪魔」と呼んだ・・・
 その悪魔が私・・・  わかるかしら?』

・・・わかるはずがない
突然目の前で「悪魔だ」と言われても納得できるはずがない
しかも・・・クラウスの姿で言われたらなおさらである

『そうね・・・ 言い方を変えたら・・・「ドッペルゲンガー」
 ・・・・・・これでどうかしら? 水無月クラウス・・・もう一人の私』

『もう一人の・・・私・・・?』

『そう・・・私はあなたであり・・・あなたは私である』

ドッペルゲンガー・・・ それは自分そっくりの分身のことである
ドイツの伝説では、ドッペルゲンガーを見た者は数日のうちに必ず死ぬと言われている
そんなドッペルゲンガーを名乗る者が目の前にいる・・・

『私はあなたから生まれた分身・・・
 常にあなたの中に潜んでいるわ
 ただ・・・・・・さすがに本体に死なれると困るから今回は出てきたけれど・・・』

『ど、どういうこと・・・?』

状況が理解できない澪
自分はクラウスに復讐するためにクラウスの前に姿を現した
しかし・・・二人目のクラウスが目の前に立ちふさがり・・・自らを「悪魔」と主張している・・・

『私はあの子の中・・・つまりクラウスの中に潜んでいる
 それは同化していると言ってもいい
 ・・・つまり、普段はクラウス自信の意思で行動していても・・・私がその動きを制限することができる
 そう・・・  いい例が・・・夏樹章仁を殺したあの日ね・・・』

『な・・・!
 ま・・・・・・まさか・・・っ!』

『あなたもよく知っているでしょう?
 あなたの兄を殺したのは水無月クラウス
 でも、その時の中身は私・・・』

『・・・まさか・・・』

『「蒼炎の太刀」を扱う人間は邪魔だった・・・
 それは私のようなものに対して脅威となる・・・
 だから私が排除した
 夏樹章仁≠水無月クラウス≠ニして・・・・・・ね』

『そ・・・そんな・・・嘘だ!』

『嘘なんかじゃないわ
 冷静に考えてみなさい?
 あんなに師を尊敬していたあの子が・・・彼を殺せるとでも思って?』

『・・・・・・!
 な・・・なら・・・私は・・・今まで何を・・・』

『真実を知らぬまま・・・勝手に踊っていた、ということね
 なかなか滑稽だったわよ?  澪・・・
 後悔するのが遅すぎたわね
 怒るあまりに真実を見失う・・・  それが人間というもの・・・』

「悪魔」と名乗るクラウスは「クスッ」と笑い、相変わらず相手を見下した目で澪を見ている

『章仁もなかなかやってくれたものね
 あの男・・・・・・私の存在に気づいていた
 だからあの子・・・クラウスを挑発して私を引きずり出した・・・』

『夏樹師匠が・・・?』

『でも・・・それだけだったのよ
 所詮は人間・・・  いくら「蒼炎の太刀」を修得していようと使わないのであれば意味がない
 そして返り討ちにあってさよなら・・・  いい気味だわ』

『な・・・! に、兄さんを侮辱しないで・・・!』

『事実を述べたまでよ』

シュッ

ドッペルゲンガーの頬を一筋の太刀がかすめた

『あなたが・・・夏樹師匠を・・・』

『どうしたのクラウス?
 何を怒っているのかしら・・・』

『・・・・・・』

『ふふ・・・やっぱりあなたも人間ね
 単純・・・  たった一つの命くらいどうってことないじゃない
 ・・・人間の数は億を超えてるのよ?』

『澪の代わりに私が夏樹師匠の仇を討つ・・・』

『・・・あなたにできるかしら?
 ふふ・・・まあいいわ  今回は退いてあげる
 また会いましょう? その日を楽しみにしているわ』

そう言うとドッペルゲンガーと名乗るクラウスはまるでワープするように姿を消してしまった

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

『・・・・・・クラウス』

澪が口を開いた
罪悪感があるのかクラウスから目を逸らしている

『・・・ごめん・・・・・・なさい・・・
 私・・・・・・』

『・・・澪』

『私・・・どうすればいいんだろう・・・
 もう・・・わからない・・・・・・』

『・・・もう一度考えてみよう?
 ゆっくりでいいから・・・・・・』

『クラウス・・・』

『一緒に仇をとろう?
 ・・・・・・私も・・・許せない
 もう一人の私が・・・・・・』

『・・・でも、さっき復讐なんて・・・』

『・・・澪の気持ちがわかったから・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・
 ありがとう・・・クラウス』

「友」が「仇」に変わり、
「仇」が「親友」になったこの瞬間・・・
異なった二つの道は一つになり・・・その道を歩き始める
壊れた友情が少しずつ回復しつつあった・・・

To be continued......


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