『楓さん・・・・・・いえ、お師匠様!
 よろしくお願いしますね』


------Story05〜Claus's Episode〜『お師匠様』------


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


目を覚ますと山小屋らしき場所にいた
どうやら意識が戻ったらしい

---・・・・・・?

全身がズキズキする
体を起こそうにも痛くて起こせない
クラウスの額にはよく冷えたタオルが乗せられていた
どうやらベッドに寝かされているようだ

いまいち状況が飲み込めない
とりあえず自分は誰かの家にいる
しかしその「誰か」の姿が見当たらない
体が起こせないので視界は限られてくるが、
物音一つ聞こえないため誰もいないようだ

とにかく体中が痛い
クラウスはおとなしく寝ていることにした

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

いつの間にか眠ってしまっていたようだ
30分は眠っただろうか
全身の痛みは感じなくなっていた
何か物音が聞こえる
どうやら家の主が帰ってきたらしい

クラウスは体を起こし辺りを見回す
すると椅子に座って本を読んでいる一人の少年の姿が確認できた
少年はクラウスが起きたことに気づき軽く声をかけた

『やぁ、目が覚めたみたいだね
 どう?体・・・痛くない?』

『・・・・・・あ、は・・・はい
 どうも・・・・・・』

『それにしても驚いたよ
 あんなところに人が倒れてるなんてね・・・』

『はぁ・・・ どこに倒れてたんですか?』

頭がいまいちスッキリしないクラウス

『林の中に倒れてたんだよ
 しかも全身血まみれで・・・
 ピクリとも動かなかったから焦ったよ・・・』

『・・・・・・・・・・・・』

---・・・私・・・なんで倒れてたんだろう?
  ・・・ ・・・ ・・・
  思い出せない・・・なんで・・・?どうして・・・?

頭に霧がかかったかのように何も思い出せないクラウス
思い出せないのは今日の出来事だけで昨日までの記憶はある

『・・・まぁ、理由は聞かないでおくよ』

『・・・・・・』

『ゴメン・・・余計なお世話だったかな・・・?』

『い・・・いえ、ありがとうございます・・・
 よくわかりませんけど・・・助かりました』

申し訳ないようにうつむきながら礼を言うクラウス
少し間をおいて・・・

『・・・ごめんなさい
 何があったのか・・・覚えてなくて・・・ 私・・・』

---本当に何も覚えてない・・・
  昨日は確か・・・いつも通り学校に通って道場で修業して・・・
  今日も・・・・・・道場に行ってたはず・・・
  ・・・・・・行ったのかな・・・?

『まさか記憶喪失・・・なんて言わないよね?』

苦笑い気味に少年が尋ねる
クラウスは首を横に振った

『記憶はちゃんとあります
 ・・・・・・昨日までのですけど』

『・・・じゃショックか何かで一部の記憶がなくなったってことなのかな』

『・・・どうなんでしょう』

『まぁ、思い出せないのは仕方ないよ
 しばらくはゆっくり休んでたほうがいいかな
 とりあえず治癒魔法はかけておいたけど・・・精神的に疲れてるだろうし』

『・・・治癒魔法・・・・・・?』

妙な単語を発する少年
なにかの冗談だろうか

『え・・・あ、いや 気にしないで
 うん 知らないならいいんだ
 そ、そうだ  刀・・・あそこに置いておいたから』

少年は慌ててはぐらかした
その慌てように少し疑問を感じつつも、
クラウスはベッドからおりて愛刀のあるところへ近寄る

『蒼天華・・・』

刀を手に取りその名前を呼ぶ
刀にはどす黒い血がついていた

---血・・・?
  どうして・・・血が・・・?

何故血がついているのかわからない
蒼天華で「異形の者」と呼ばれる生き物を斬ったことはある
しかしこの血は異形の血とは違う・・・
この血は・・・人間の血だ

『・・・・・・・・・』

クラウスの記憶によると人間を斬ったことは一度もなかった
しかし「思い出せない今日の出来事」の中で彼女は人を斬ってしまった
もちろん彼女は思い出せないのでそのことは知らない

結局わからずじまいだったので、
頭にクエスチョンマークを浮かべつつもその件は考えないことにした

とりあえず体調も回復したようなのでクラウスは家に帰ることにした

『ありがとうございました
 あの・・・・・・よろしければお名前を・・・』

『ん? 僕は楓・・・名字は音霧』

『楓さんですか
 私は水無月クラウスです
 ・・・いつか必ずお礼させていただきますね
 それでは・・・失礼します』

『ん、気をつけて』

そう言った矢先、クラウスがバランスを崩し転んでしまった
ゆっくり体を起こしクラウスはうつむいた
そしてしばらく硬直していた
楓は苦笑いしながらクラウスのそばへ行く

『だ、大丈夫?』

『あうぅ・・・』

『やっぱりまだ疲れがとれてなかったんだね・・・
 もう少し休んでく?』

『あぅぅ・・・すみません・・・』

半分泣きそうになりながらクラウスは楓の小屋に戻る
そしてベッドに腰をかける

ふと楓がナイフのようなものを取り出した
そして彼の目つきが鋭くなる

---・・・ひっ?

突然そんなものを取り出されたものだからクラウスは一瞬凍りついてしまった

『ここで待ってて』

そう言うと楓はナイフ片手に外へ飛び出した
「待ってて」と言われても気になったクラウスは扉から顔を出して楓の姿を探す
楓のことはすぐ発見できた
ただ・・・楓の他に数体の異形の者がいた
黒い獣のような外見をしている
しかし・・・異形は異形だ

---・・・!異形・・・!!

クラウスは使命感で蒼天華を手に飛び出した
少しクラッとくるがそんな場合ではない

---異形を送り返さなきゃ!

クラウスの通っていた蒼神流≠ニはただの道場ではなく
「異形を滅する」ことを生業としている
「滅する」とはいえど、正しくは「送り返す」という意味だ
この世界には時折異形が現れる
そのほとんどが怨霊のようなもので、
それを送り返すということは本来在るべき場所・・・つまり「あの世」へ送るという意味である
「成仏させる」という表現もできるが、
少々無理矢理なところがあるのでその表現が正しいのかは微妙なところだ

クラウスは飛び出した勢いのまま刀を抜く
そしてそのまま近くの異形を一体斬り裂いた
他の異形がクラウスに気づき彼女に襲い掛かる

『!? み、水無月さん!』

楓もクラウスの存在に気づく
クラウスは無言で異形を斬っていく
一体ずつ・・・確実に・・・

クラウスの愛刀「蒼天華」には特別な術が施されていて、
使用者の気によってその効果を発揮する
通常はどこにでもあるような普通の刀なのだが、
その効果が現れると威力が増加するのはもちろん、さらに異形を消し去ることができる
消し去るとはいっても、さきほど説明したように本来在るべき場所に送り返すということだ

そのため斬られた異形は姿を消していく
異形の数は少なくなかったがクラウスが優勢に見えた
しかし・・・まだ疲労がとれていないせいだろう
若干動きに隙がある

異形はその隙を逃さなかった
異形はクラウスの背後から襲い掛かる
クラウスが気づいた時には異形の爪が振り下ろされていた

---間に合わない!

その時だった

ズバッ

ものすごい音と共に強い風が吹いた
クラウスの背後にいた異形は姿を消していた
それだけではなく他の異形もいなくなっていた

一瞬の出来事で何が起こったのか理解できない
頭の中で整理してみると、
突然強い風が吹いて異形が姿を消した・・・・・・となる

あの風は何だったのだろう?
そんなことを考えていたら

『水無月さん!伏せて!』

楓の声が聞こえた
クラウスは言われたとおりに体を伏せた
理由はわからなかったがとりあえず伏せてみる

すると・・・クラウスの頭上を一陣の風が吹き抜けた
何事かと思い空を見上げてみると消えていく異形の姿が見えた

視線を楓のいる方向へ持っていく
楓は何事もなかったかのように立っていた
楓がクラウスに近づく

『大丈夫・・・だよね
 突然水無月さんが来てビックリしたけど・・・おかげで詠唱する時間ができた
 ありがとう 助かったよ』

『い、いえ・・・私の方こそ・・・助かりました
 そ、それであの・・・今のは・・・?』

『異形・・・・・・のことは知ってそうだね
 なら「魔法」のことかな』

『まほー・・・・・・?』

『そう 魔法
 僕が扱うのは風魔法・・・』

『魔法って実在したんですか!?』

クラウスが身を乗り出して尋ねる
突然の反応に楓は驚いてしまう

『う、うん
 ゲームなんかにあるのと大体同じだよ
 まぁ、もっとも・・・ゲーム内の魔法は現実にある魔法をもとにしているんだけど』

『ほ・・・本当ですか!?』

クラウスの目が輝いてきたように見える
興味津々といったところだろうか

『わぁ〜・・・
 魔法って本当にあったんですねぇ・・・夢みたいです』

『ビックリ?』

『はい  私・・・ファンタジックなものが大好きなので・・・
 「魔法が本当にあったら素敵だな〜」と思ってたんです』

『まぁ、魔法はあまり表に出ないものだからね
 悪用されると厄介だし・・・』

『あ、あの・・・っ!』

『ん?』

『わ・・・私にも・・・魔法って使えますか・・・?』

モジモジしながら尋ねるクラウス

『もちろん  誰にでも使えるよ
 まぁ、使える魔法の種類はその人の魔力によって違うんだけど・・・』

『・・・わぁぁ
 な、なら・・・あの・・・その・・・お、お願いが・・・あ、ある・・・んですけど・・・』

言葉を詰まらせながら喋るクラウス
顔を微かに赤らめている
楓はキョトンとした表情でクラウスを見ている
するとクラウスは顔を上げて

『わ、私に魔法を教えてくださいっ!!』

真剣な表情でそう言った
魔法の存在を知れて嬉しかったのだろう
そんな魔法を自分も使ってみたい、と思ったのだろうか
その勢いのまま頼んだように見えた

『え・・・?
 で、でも・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・』

クラウスは真剣に楓を見つめている

『・・・・・・そんなに楽なものじゃないかもしれないよ?』

クラウスの顔がパァッと明るくなる

『構いません!私・・・頑張れます!』

『でも・・・僕なんかでいいの?
 もっと強い人がいると思うけど・・・』

『いいんです
 楓さん・・・優しそうな人だから』

楓の顔が反射的に赤くなる
楓はその顔を隠すように後ろを向いた

『じゃ、じゃぁ・・・細かいことは中で話そうか
 外も冷えてきたし・・・ね』

『はい!
 楓さん・・・・・・いえ、お師匠様!
 よろしくお願いしますね』

それがクラウスと楓の出会いだった・・・

・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

----------

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り響く

『ふぇっ・・・?』

チャイムの音で目が覚めた
どうやら眠ってしまっていたらしい
いつの間にか辺りがオレンジ色に染まっていることに気づいた
影が長く伸びている

---な、なんか前にも同じことがあったような・・・

嫌な予感にクラウスは冷や汗をかいた
恐る恐る腕時計を見てみる・・・

『あぁぁぁぁぁぁ〜〜!!!』

予感的中、時計の針は午後4時をまわっていた
ガックリと気を落とすクラウス
そんな彼女に声をかける人物が現れた

『ク〜ラちゃんっ♪』

頭に猫のような耳をつけた少女「由真」だった
後ろに楓の姿もある

『お目覚めはいかが〜?』

からかうように由真が尋ねる

『・・・あぅぅ・・・授業サボっちゃった・・・』

『アハハ、ドンマイドンマイ♪』

『ん〜〜〜・・・っ』

背伸びをして立ち上がるクラウス

『さて、帰ろうか?』

楓が二人に声をかける

『そだね〜  じゃ、帰ろっ?クラちゃん』

『はい』

そして三人は屋上を去る
静かになった屋上
そこに一つの影があった

『水無月・・・クラウス・・・・・・・・・・・・・・・』

そして影はその場から消えた
最後に聞こえてきたのはこんな言葉だった

『クラウス・・・
 許さない・・・・・・ 絶対に・・・許さない・・・・・・・・・!』

To be continued......


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