『嫌です 戻りません
 私は・・・お師匠様の下で修行する、そう決めたんです』


------Story03〜Claus's Episode〜『技無き者』------


よく晴れた朝
担任が教室に来るまで、生徒は雑談をしたりとにぎやかな教室
連日の戦いで疲れが取れないクラウスだったが、今日はちゃんと教室に来ていた

『あぅぅ・・・眠いです・・・』

机にへばりつくクラウス
眠いうえに全身筋肉痛ときたものだからなかなか辛い
まともに授業を受けられるのかどうかさえ怪しい状態だった

『おはよ、水無月さん』

『あ、おししょーさまぁ・・・
 おはよ〜です・・・』

とても眠そうである
目がトロ〜ン・・・としている

『あ、楓ぴょん楓ぴょん!』

茶髪の少女から声をかけられる楓
少女の頭に何かついているように見えなくもないが・・・
ここでは触れないでおこう

『・・・猫塚さん・・・・・・
 みんなの前で「ぴょん」は・・・』

苦笑いを浮かべて楓が反応する

『楓ぴょんは楓ぴょんだよ』

無邪気な笑顔で押さえ込まれてしまった
これでは反論しにくい

『猫塚さんじゃなくて「ユマりん」
 オーケー?楓ぴょん』

彼女の独特のテンションについていけない楓
とりあえずうなずいておいた

『まったく・・・楓ぴょんは無愛想だからねぇ』

『・・・そうでしょうか?』

クラウスがハテナ顔で聞き返す

『ん〜・・・、まぁ控えめだよね楓ぴょんは
 もうちょっと友好的になるべきだよ 友達なんだし』

『そうですね』

『「そうですね」って言いながら丁寧語なのもどうかと思うけど・・・』

『ところで、何か用でも?』

楓が問いかける
少女「猫塚由真」は何か聞いてほしいことがあるかのように声をかけたので、
目を輝かせて楓に話した

『うんうん
 あの噂のことを聞いてほしかったんだ』

『あの噂っていっても・・・
 噂はそこらじゅうに転がってるから・・・ ・・・どの噂?』

『ん〜とね、技持たぬもの・・・ていうか技無き者?の噂だよ』

『少しなら聞いたことがあるかな・・・
 全く技を持たず・・・手も出さずに相手を倒す・・・だったっけ?』

『そうそう
 しかも、カメラで録画して何度見直しても本当に動いた形跡がないんだって
 つまり・・・何もせずに突っ立っているだけで相手を倒せる人物・・・
 「ノンスキル」と呼ばれてるらしいよ』

由真の表情が生き生きとしている
どうやら噂話が好きなようだ

『なるほど・・・技無き者で「ノンスキル」・・・か
 でも、何もせずに相手を倒せることがものすごい技だと思うんだけどなぁ・・・』

不思議そうに楓は首をかしげる
確かに何もせずに相手を倒すことなどできるはずがない
つまり、何か仕掛けがあるはず
しかし一切技を使わないどころか動いてすらいないだなんて・・・ありえない話だ

『呪文を唱えた形跡もなし、どれだけスロー再生しても動いた形跡なし
 どのアングルから見ても・・・動いた様子は見られないんだそうですよ』

クラウスが詳しい情報を伝える
どこでこの情報を仕入れたのかは不明だ

『まさか・・・本当に突っ立っているだけで・・・?』

信じられない情報に冷や汗をかく楓
かつてそんな超人がいただろうか?
もしや超能力・・・?
そんな思想が楓の頭を駆け巡った

『でも、不思議なことにやられた相手の身体には痣ができてたりするらしいんです』

『殴ってもいないのにね・・・ 不思議だよね
 試合前に何か不正行為でもやってるのかな・・・』

由真も首をかしげる
この噂はラジオで流れ始めたものだが、
実際にその姿を目撃したという情報は少ない
その情報を持ってくる人物は・・・「ノンスキル」にボコボコにされたヤンキーばかりである

もちろん、楓もクラウスも由真も「ノンスキル」の顔を見たことはない
そして不思議なのが身元が判明しないこと・・・
どれだけ捜索しても「ノンスキル」を発見した例はない
ただヤンキーの証言があるだけだ
正直なところ・・・真実かどうかさえ怪しい
「ノンスキル」は実在する人物なのだろうか?

・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・

放課後
部活に行く者、帰宅する者、教室に残る者
帰宅部が多い現状にあるため、教室に残る者はそこそこ多かった
その中に楓、クラウス、由真が含まれていた

『あの三人が気になる・・・
 また襲われたりしたらどうするか・・・』

楓がボソリと呟いた
三人とは昨日闇の中から現れた「凪」「一閃」「如月」のことである
そのことを知らない由真は興味津々に楓に尋ねた

『何々?何の話なの?』

『ん?いや・・・なんでもないよ、うん』

『なんで隠すのさぁ』

ムッとした表情をする由真
少し頬を膨らませているようだ

『昨日ですね・・・中庭でずっと寝てたら女の人に襲われちゃったんです』

クラウスがその時のことを由真に説明した
どこまで理解しているのか、由真は「うんうん」と相槌を打っていた

『クラちゃん昨日学校来てたんだ?
 なんで教室に来なかったの?』

『・・・ずっと・・・寝てました』

クラウスは由真から視線をそらし、少し顔を赤くしてそう言った
すると何故か由真は目を輝かせた
そして明るくこう言い放った

『じゃあ・・・中庭でずっと寝てるとその人と会えるんだね!?』

何故か楽しそうである
本当に噂的な話が好きな少女である

『いや、そんなことはないと思うけど・・・
 昨日のは多分・・・偶然だし』

苦笑いで答える楓
どうも由真のペースについていけないようだ

『楓ぴょん・・・もうちょっと盛り上がろうよ?
 恥ずかしがってないでさ』

楓が盛り上がっていないのではなく、
由真が盛り上がりすぎているように見える
・・・クラウスはそう思ったのだが口に出さないことにした

『よぉ〜し、明日実行してみよう』

やる気満々の由真
そんな様子を見てクラウスは

『さ、サボタージュはよくないですよ』

と軽いツッコミを入れた
ツッコミになっているかは微妙なところだが

『ん〜・・・別にサボりたいわけじゃないんだけどなぁ
 ・・・う〜ん じゃ、一週間後にでも実行してみよっかな』

何故「一週間後」になるのかが不明である
別にいつ実行しても変わらないような気がする・・・
とりあえずいろいろつっこみたかったが、クラウスは黙ってることにした


そして下校
いつもは楓、クラウス、由真の三人で一緒に帰るわけだが・・・今日はクラウス一人だった
別にクラウスを置いて二人が一緒に帰ったわけではない
単純にバラバラになっただけである

---一人で下校って・・・結構寂しいです・・・

そんなことを心で呟きながらクラウスは歩いた
まだ日は落ちず、青空が見える
そんな時・・・

『あの、少しお尋ねしたいことが・・・』

『ひゃぃっ!?』

突然背後から声をかけられた
恐る恐る後ろを振り返ってみる
昨日の出来事もあって、突然背後に回られるとどうしても怖くなってしまうクラウスだった

『は・・・はい
 なんでしょうかー・・・?』

心臓がバクバクしたままクラウスは返答する
いきなり背後から声をかけられて相当驚いたようだ

『あなたは水無月クラウスさんですね?』

背後にいたのは少年だった
見たところ・・・高校生くらいだろう
ごく普通のどこにでもいそうな外見である

『ええ そうですが・・・』

---この人・・・誰だろう?
  私のことを知ってるみたいだけど・・・

『申し遅れました
 僕は・・・・・・そうですね、「ノンスキル」と名乗っておきましょうか』

少年は「ノンスキル」と名乗った
最近噂になっている「技無き者ノンスキル」と・・・

『!?』

更に心臓が高鳴った
クラウスの心臓はかなりバクバクしている
一度こうなるとどうしてもすぐにはおさまらないものだ
しかし、この少年から殺気は感じなかった
そのため・・・危機感を感じることはなかった

『何もそんなに驚かなくても・・・
 僕の噂・・・そんなに変でしたか?』

何食わぬ顔でノンスキルが言う
そして彼はこう言った

『まぁ、今日は伝言を伝えに来ただけです
 他に何もするつもりはありませんから安心してください』

『伝言・・・ですか?』

『ええ
 蒼神流の道場より・・・「もう一度道場に戻って来い」と伝えろ、とね』

『・・・え?』

蒼神流(そうじんりゅう)≠ニは、かつてクラウスが通っていた道場の流派の名前である
彼女はそれなりに優秀であった
それなのに彼女は「別の修行をしたい」と突然道場を飛び出していってしまったのだ
おそらく優秀な人材を失いたくなかった道場が彼女を連れ戻そうと思っているのだろう

『ですから、「もう一度蒼神流道場に戻って来い」
 という伝言を伝えに来たのです』

『そ、そんな・・・どうしてですか?
 私はもう・・・やめたはずです』

『そう言われても・・・僕は伝言を預かってきただけですから
 というか・・・あなたは「やめた」のではなく「飛び出した」だけですよね?』

図星を指されてクラウスは返答に詰まる
でも、ちゃんとした理由があって道場を飛び出したクラウスは、
彼を納得させるためにこう言った

『嫌です 戻りません
 私は・・・お師匠様の下で修行する、そう決めたんです』

『・・・そうですか  その意志は立派ですね
 でも・・・伝言を伝えても駄目なようなら・・・無理矢理にでもつれて来いとのこと・・・
 そういうわけですが・・・どうします?』

ノンスキルの表情が真剣になる
少しだけ・・・彼から殺気が放たれていた

『・・・・・・・・・私が勝てば・・・その話はなかったことになるんですか?』

愛刀「蒼天華」に手をかけてクラウスが問いかける
そしてノンスキルはこう答えた

『そうなりますね  僕を倒せるようであれば戻らずとも大丈夫でしょう
 ・・・まぁ、「倒せれば」の話ですが』

不敵な笑顔を見せるノンスキル
その刹那、刀の柄に小石がぶつかったような衝撃が走った
クラウスは殺気を感じて咄嗟に刀を抜く
そして抜刀の勢いで前方に斬りかかった
「居合い斬り」といわれるものである

刀が空中を切り裂く
確かに目の前にはノンスキルがいたはずだ
刀の柄に衝撃が走った瞬間までは目の前にいた
それは確かなのだ
だが・・・刀は空中を切り裂いた
ノンスキルの姿はそこにはなかった

『ふぅ・・・ちょっと手を出しただけで斬りかかってくるとは・・・』

クラウスの背後から声が聞こえた
まさか背後にいるとは思わなかったのか、ビクッと肩を震わせるクラウス           
クラウスはおそるおそる背後を振り返る
そこにいたのは確かにノンスキル本人の姿だ
いつの間に彼はクラウスの背後に回ったのだろうか?
確かにクラウスは勢いのままに斬りかかった・・・
だが、相手を見ないで斬ったわけではない
無意識ではあるがターゲットを定めて斬りかかったはずなのだ
しかし攻撃は外れた・・・

攻撃を見切られたのだろうか?
だとすればものすごいスピードで避けたことになる・・・
それに見切るには相当な動体視力が必要であろう
刀に手をかけた時点で相手は既に避ける準備でもしていたのだろうか?
仮にそうだとしても一瞬のうちに避けたことに変わりはない・・・

クラウスの背後に立つノンスキルと名乗る少年・・・
どうやら噂通りの本物らしい・・・
刀の柄に衝撃が走った瞬間も彼が動いたような様子は見られなかった

『どうしました?
 一瞬すぎて・・・何が起こったのかわかりませんでしたか?』

『・・・・・・』

驚きを隠せないクラウス
ノンスキルは「やれやれ」と言った様子で手を広げる

『相手を斬るのに余計なことを考えるから攻撃を中てられないんですよ』

『え・・・?』

『「斬りかかったはいいが・・・本当に斬ってしまったらどうしよう」
 あなたにはそんな迷いがあったから思い切り斬ることができなかった
 ・・・違いますか?』

『そ、そんな・・・迷いなんて・・・』

『まぁ、今回は伝言を伝えに来ただけですので・・・
 ・・・僕はこの辺で失礼しますね』

そしてノンスキルはクラウスに背を向ける
彼は背を向けたままこう言った

『僕に勝とうなんて思わないことです
 僕の攻撃を見切ることができない限り・・・勝つことは不可能なのですから』

そして彼は商店街の人ごみの中へと消えていった
ふとヒラリとクラウスの目の前に紙が飛ばされてきた

クラウスはそれを手に取り、書いてある文章を読んでみた
その紙には・・・

「気が変わったらいつでも連絡してください
                  ...ノンスキル」

・・・と書いてあった
その文章の下に携帯のメールアドレスと思われるものが書いてあった
クラウスはその紙をポケットに突っ込んで空を見上げた

---蒼神流・・・もう・・・戻らないと決めたのに・・・
  ・・・どうして・・・わかってくれないの・・・?

謎の使者「ノンスキル」
そんな人物を使ってまでもクラウスを連れ戻そうとしている蒼神流
おそらく言葉だけでは諦めてもらえないだろう
そう思ったクラウスは、蒼神流と正面から向かい合っていこうと誓うのであった

To be continued......


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