『ありす・・・・・・』

ぐったりしたありすを抱きかかえるマリアーヌ
ありすは気を失ったのか呼びかけに答えない

『・・・まさか・・・こんなに早く目覚めるなんて・・・』

マリアーヌがポツリと呟いた
楓とクラウスは何の話なのかさっぱりわからない

『そうね・・・  本来は15回目の誕生日を迎えた時に・・・目覚めるはずなのだから』

気を失ったありすを見つめながら咲華が静かに口を動かす
咲華の瞳には大粒の涙が溜まっていた・・・


------Story11〜Alice&Claus's Episode〜『姫梓原』------


『ところで・・・・・・』

マリアーヌがゆっくりとクラウス達の方を向く
そして静かに問う

『あなた達は・・・何者・・・?』

楓は返答に困った
どう考えても「あなた達を追いかけていた者です」という答えしか浮かんでこなかったからだ

『ただの通りすがりだよん♪』

ひょっこり由真が顔を出した
いつの間にここに来ていたのだろうか・・・

『・・・真面目に』

鋭い目つきのマリアーヌ
あんまりふざけていると攻撃されてしまいそうだ

『・・・光の使い手がいるんじゃないか・・・と思って』

楓が素直に答えた
・・・といっても尾行していたことについては触れなかったようだが

『・・・・・・そう』

マリアーヌは軽く流した
・・・・・・それで会話が途切れた

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

気まずい沈黙
ありすの様子を見守る咲華とマリアーヌ
そこら辺をキョロキョロ見回している由真
状況が分からずポケーっとしているクラウス
そして額に手を当ててうつむいている楓

『お師匠様・・・・・・どうかしましたか?』

負のオーラをバリバリ漂わせていた楓の様子が気になったクラウスが彼に声をかける
楓はうつむいたままボソリと一言・・・

『だから女の子は苦手なんだ・・・』

そう呟いた
「どうして苦手なんだろう・・・」
という疑問を浮かべるクラウスだった

『スルーされた・・・』

再び楓がボソリと呟いた
負のオーラが更に強さを増している
そんな楓に苦笑いしか返せないクラウスだったが、とりあえず慰めの言葉をかけてみる

『そ・・・そんなことありませんよ』

『・・・でも沈黙・・・・・・』

相当ダメージが大きかったらしい
しばらくしてマリアーヌが口を開いた

『・・・・・・返答に困った
 つまり・・・あなた達はありすを追ってきた・・・
 そういうこと・・・・・・?』

『スルー・・・沈黙・・・ははは・・・』

聞こえていないのだろうか
楓の様子がだんだん狂ってきている
仕方がないのでクラウスが答えた

『はい・・・  光の使い手の生き残りがいたなら・・・それは大事件ですから・・・
 どうしても気になってしまって・・・  ・・・すみません』

『それは・・・・・・ありすを・・・獲物として見ているからか・・・?
 それとも・・・護るべきものと見ているから・・・?』

口調も鋭いマリアーヌ
その目つきはとても真剣で・・・とても冗談が通るとは思えない
もっとも・・・冗談を返す気はなかったがクラウスは正直に答えた

『・・・護るべきもの・・・です
 お師匠様から・・・話は聞いています
 光の一族・・・姫梓原姫梓原きしはらは・・・』

『ダメ!!』

突然咲華が大声をあげた
突然の出来事にクラウスはもちろん、楓と由真も驚いた

『だめ・・・ その名前を口にしないで・・・
 じゃないと・・・ありすが・・・・・・悲しむから・・・』

咲華が消えそうな声で言葉を発する
彼女の瞳に未だに涙が留まっていた

『・・・本当にそうなのか?
 ・・・・・・真実を知らないまま・・・生き続けて・・・本当に悲しまずに済むのか・・・?咲華?』

冷静にマリアーヌが訊ねる
咲華はうつむいて黙ってしまった
どちらの選択が正しいのか・・・?
最善の選択・・・そんなのが見つかれば彼女は悩みはしないだろう
そもそも『最善』などというものがあるのだろうか?
いずれは嫌でも知らなければいけない事実・・・
今・・・この場で本人に告げるべきか・・・時が来るまで話さずにいるべきか・・・

『・・・どうだ? 咲華・・・』

『・・・・・・今はだめ
 ありす・・・疲れてるから・・・・・・』

この選択は・・・「時が来るまで話さないでおく」という意味なのだろうか?
それとも・・・これを言い訳にして・・・選択を保留させようとしているのか・・・

『・・・・・・そうか ・・・そうだな
 今のありすには・・・辛いだろう・・・』

マリアーヌは納得すると目を閉じて静かに口を開いた

『・・・話を知っているのなら早い・・・
 あなた達にだけでも・・・この事実は伝えておいた方がいいかもしれない・・・』

『マリア?』

『・・・・・・ありすは気を失っている
 だから・・・問題はない
 それに・・・・・・音霧と水無月の血筋が「護る」と言ってるんだ・・・
 信用できると思わないか・・・咲華?』

『水無月・・・?』

『・・・・・・水無月のことは知らなかったか
 まあいい・・・・・・』

咲華とマリアーヌは二人でなにやら話し合っているようだ
そんな中に楓が口を挟んだ

『・・・音霧の血筋だって気づいてたんだね』

『・・・今気づいた
 あの魔法から・・・そんな気配を感じていた
 あの時は・・・ハッキリしなかったが・・・
 姫梓原の名を知っているのだから・・・間違いないだろう』

『ん・・・自己紹介が遅くなったね
 僕は楓  名字はお察しの通り音霧』

『私は水無月クラウスです』

『私はマリアーヌ・・・
 マリアーヌ・キャストライト・・・』

『あ、私は瑠璃垣・・・』

『じゃ・・・本題だが・・・ありすは・・・』

『私を無視しないでー・・・』

咲華を無視して話を続けるマリアーヌにあわあわする咲華
そんな咲華を見たマリアーヌは

『こちらは咲華・・・
 瑠璃垣咲華  私の友人だ』

と紹介した

『私の出番が・・・』

軽く絶望のポーズをとる咲華
忘れてはならないのが由真の存在
彼女は今まで一度しか発言していない
しかしその由真は帽子をクルクル回して楽しそうだったので気にしないことにした

それでもそんな由真の様子が気になって仕方がなかった咲華
そこで咲華は由真の頭にある猫耳を発見した
せっかく猫耳を隠すためにかぶっていた帽子なのに、
由真はその帽子を指に引っ掛けてクルクル回しているのだった

『あの・・・もしかして由真さん・・・?』

『にゃ? ぼくのこと知ってるの?』

『・・・はい  椿先輩から・・・聞きました』

『・・・何故いきなり丁寧語なんだ? 咲華・・・』

『だ、だって・・・先輩だよ? ・・・多分』

『・・・私は知らない
 別に学校通ってないし・・・・・・』

『・・・そうだったわね』

「はぁ・・・」とため息をつく咲華
由真はキョトンとした顔で咲華を見つめていた

『さて・・・本題だが・・・
 ありすは知っての通り光の使い手・・・姫梓原一族の生き残りだ』

マリアーヌが静かに説明を始める
由真は相変わらず帽子をクルクル回していた・・・が、一応聞いてはいるようだ

『やっぱり姫梓原の生き残りだったのか・・・
 なら・・・なんで名字が「澤咲」なんだろう?』

楓が訊ねる
確かに「姫梓原」の生き残りが「澤咲」を名乗っているのはおかしい

『・・・それは・・・
 ・・・話しちゃっていいのかな・・・?マリア』

『・・・いずれは知らなければいけないことだ』

『・・・うん、わかったわ
 でも条件があります・・・』

『条件?』

『ありすを護る・・・それか、一切関わらないで
 裏切ったら・・・許さない
 これが了承できなければ・・・教えられません』

咲華は楓にそんな条件を出した
楓は迷うことなく

『裏切る理由なんてない
 特に問題が無いようなら・・・護らせてもらっていいかな?』

そう答えた
クラウスはその隣で「コクコク」とうなずいている
由真もつられてうなずいていた

『それはやっぱり・・・音霧の教えだからですか?』

『もちろん・・・
 それ以外には何も知らないしね
 僕としては・・・何故君が音霧の教えを知っているのかが気になるけど』

『・・・・・・・・・・・・ある人から聞きました』

『・・・姉御か』

『姉御? 誰ですか・・・お師匠様?』

『・・・ん、そのうち話すよ』

『・・・それで、何故「澤咲」なのか・・・についてですが・・・
 音霧先輩は・・・椿先輩のことはご存知ですか?』

咲華はありすの兄「澤咲 椿」のことを訊ねた
楓は少し考えてこう答える

『彼女に兄がいたことは知ってたけど・・・
 それがその・・・椿さん?』

『はい  ・・・澤咲 椿・・・
 それがありすの兄の名前です』

『・・・・・・ところで・・・姫梓原の生き残りはそのありすさんだけなんだよね?
 ・・・兄は・・・違うのか?』

『これから話すことが・・・今のありすに話すことができない部分です』

『・・・・・・・・・』

楓とクラウスは真剣に聞き取ろうとしている
由真はとりあえず帽子をいじっている
気に入ったのだろうか?

『・・・椿先輩とありすには・・・血のつながりがありません』

『・・・そうなんだ』

『驚かないんですね・・・』

『別に・・・・・・知り合いだったわけじゃないからね』

『ありすは・・・椿先輩・・・つまり兄のことを慕っています
 そんなありすにこの事実を告げたら・・・ありす・・・立ち直れなくなるんじゃないかと・・・思・・・って・・・』

不意に咲華の瞳から涙が零れ落ちる
親友の悲しむ姿を想像したせいだろう
咲華はそれだけありすのことを大切に想っているのだ

『とにかく・・・姫梓原の血縁はありすだけということだ』

咲華に代わってマリアーヌが説明する

『姫梓原の魔力は癒しの象徴・・・
 そして光は全ての希望・・・
 そう・・・姫梓原は失われてはならない存在・・・
 だから・・・今は「澤咲ありす」でも護っていかなくてはいけないんだ・・・』

『ん・・・先代の教えで聞いたとおりだね
 僕が聞いたのは・・・麗華様の代だったかな・・・』

『麗華・・・ 姫梓原麗華・・・か』

『そういえば・・・マリアはなんでそんなに知ってるの・・・?』

ふと咲華が問う
マリアーヌは一瞬言葉に詰まる

『・・・・・・ アクアマリンがそう教えてくれた』

『アクアマリン・・・宝石が?』

マリアーヌはポケットから宝石を取り出して静かに見つめる

『そう・・・ アクアマリンは・・・宝石の精霊である私にとっては「もう一人の自分」とも言える存在・・・
 アクアマリンが私に話しかけてくれるんだ・・・
 でも・・・他人と話してる感覚とはまた違う・・・やはり「もう一人の自分」だから・・・』

『もう一人の自分・・・・・・・・・』

『どうかした?水無月さん』

『・・・あ、い・・・いえ、なんでもないですお師匠様・・・』

『ん・・・・・・』

ありすが目を覚ます
どうやら気がついたようだ

『・・・ありす、気がついた?』

マリアーヌが微笑んでありすを見つめる
ありすはそんなマリアーヌに微笑み返して

『うん・・・』

そう静かに答えるのだった

『・・・それじゃ、この話は・・・また今度で・・・いいでしょうか?』

咲華が申し訳なさそうに楓達に訊ねる
楓は「うん」とうなずいた
クラウスも続いてコクコクとうなずく
由真もとりあえず続いてうなずいた

由真からすれば「光」だの「姫梓原」だのはよくわからない
・・・けれど、うなずいておくべきだ、と判断したのだろう

『あの・・・あなたたちは・・・・・・?』

咲華とマリアーヌに自己紹介はしたが、ありすにはまだ自己紹介はしていない楓達
日も落ちてきたので楓達は名前だけ告げてその場から去っていった

『・・・楓さんにクラウスさん・・・』

『あと由真さんね?』

咲華は楓達が危険人物でないことをありすに説明する
マリアーヌは静かに宝石を見つめて呟いた

『・・・目覚めた反動によるショック・・・
 多大な魔力消費・・・・・・』

『マリア・・・?』

『・・・っ・・・ケホッ・・・く・・・・・・うっ・・・』

『ありす!?』

突然ありすが苦しそうな動作を見せる
ありすを抱きかかえる咲華
とても苦しそうなありすを見て咲華はポツリと呟いた

『やっぱり・・・そろそろ限界なのかな・・・・・・』

『・・・どうする、咲華?』

『・・・仕方ないよ  時間がない・・・
 ここは・・・あの人に頼るしかない
 彼なら・・・事情を話せば協力してくれるはずだから・・・』

『・・・そうだな  私も・・・賛成だ』

『うぅ・・・っ・・・く・・・・・・』

苦しそうなありすを見ているだけで胸が締め付けられる咲華
マリアーヌも表情には出ていないが・・・辛そうである

『絶対に助けてあげるから・・・
 だから・・・頑張って・・・ありす・・・・・・!』

---ありすを救えるのは自分達しかいない---

咲華とマリアーヌは落ちてゆく夕日を見つめて誓った
「たとえ命を懸けてでも・・・ありすを救ってみせる」と・・・

To be continued......


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