『私・・・もうすぐ死んじゃうんだ・・・・・・』

公園のすべり台の上・・・
とても幼い子どもが発したとは思えない言葉が聞こえる
そこには二人の幼き少女・・・
一人は髪が桜色で、額に不思議な痕がある
もう一人の少女は金色に輝く綺麗な髪をもつ
そのうちの額に不思議な痕を持った桜色の髪の少女が突然そんなことを言った

『どうして?どうして死んじゃうの?』

金髪の幼き少女が問う
こちらの少女はまだ「死」というものがわからない
だから「死ぬんだ」などと言われてもどういうことなのか全く理解できていない
無理もない
彼女はまだ6歳
「死」を理解するには少しだけだが・・・まだ早い・・・

逆に「死んじゃうんだ」と言う少女の方は「死」の意味を理解している
死んだら何も見えなくなってしまうこと
「自分」という存在がなくなってしまうこと
たとえ骨は残ってもいずれは土に還る
「死」をきっかけに生き物は消えてなくなってしまう・・・ということがわかっている
彼女も同じ6歳なのだが・・・
どこでそんな知識を手に入れたのだろう・・・

『私・・・病気なんだって・・・』

『びょーき?』

『うん・・・
 もう手の施しようがない・・・ってお医者さん言ってた・・・』

『悪いびょーきなの?』

一人は寂しそうに・・・
もう一人は悪気は無いが明るく素直に話す・・・

『だから私・・・あと一ヶ月で死んじゃうんだって・・・』

『いっかげつ? 死んじゃうとどーなるの?』

尋ねるほうの少女に悪気はない
悪気はないのだが・・・とてもキツい質問を軽く問いかけてくる

『死んじゃうとね・・・いなくなっちゃうんだって』

『いなくなっちゃうって・・・遠くに行っちゃうってこと?』

『・・・・・・お母さんは・・・ずっとずっと遠いところで・・・
 もう会うことができない場所なんだ、って言ってた・・・』


ふと・・・母親の顔が浮かぶ
いつも笑顔で接してくれた母・・・
医者から娘の死の宣告を受けた後でも・・・娘に辛そうな顔を見せることはなかった
しかし、年齢のわりにいろんな知識を持つ娘にはわかっていた
「母は無理をしている」と・・・
そんな時・・・
『お母さん・・・無理しないで・・・』
そう言った娘を見た母の目から大粒の涙が溢れ出す・・・
「何故娘なのだろう?
 何故自分の娘でなくてはいけなかったのだろう?
 私ではいけなかったのだろうか?
 できることなら・・・代わってあげたいのに・・・」
いろんな想いが頭を駆け巡る
そのたびに・・・その目から涙は溢れ出す
溢れる涙は・・・止まることを知らないかのように・・・流れ続けるのだった・・・

大抵の場合・・・死の宣告を知った時に受けるショックが大きいのは本人より身内であるものだ
本人はそんな身内を苦しませまいとばかりに・・・明るく振舞い、慰める
本来は・・・本人を慰めてやらなければいけないはずなのに・・・・・・


『もう会えなくなっちゃうの・・・?』

さすがにそれを聞いた時ばかりはあの明るさは失われていた
「もう会えない」
それが怖かったのだ
たとえ幼くてもそれくらいはわかる

『うん・・・』

『そんな・・・ やだよ!』

幼い子どもに「死を受け入れろ」というのは無理な話だ
だから自分の思っていることをそのまま口に出してしまう

『私も怖いよ・・・
 でもね・・・ 私が死んじゃっても・・・私達・・・ずっと・・・』

『やだ!死んじゃうなんてやだ!』

「もう会えない」と聞いて少し理解できたようだ
理解できたからこそ・・・駄々をこねる
しかし・・・そんなことをしても仕方ない
「仕方ない」とわかっている大人でも素直に受け入れられるものではない
それを冷静に対処できる人間は少ないものだ・・・

『そうだ!私が分けてあげるよ!』

『え・・・?』

今の発言は大人でも理解できるものではない
おそらく「命を分けてあげる」と言ったのだろう
そんなことができるものだろうか?
答えは「否」
できるものではない
しかし・・・すべての人間が同じとは限らない
一般的に見れば人間にそんな能力が備わっているはずがない
だが、何事にも例外は生じるものだ
「命を分け与える」など聞いたこともない話だが・・・

『私が治してあげる
 私の不思議な力で・・・』

『・・・その力って・・・自分の命を削っちゃうアレ・・・?』

『うん よくわかんないけど・・・そーゆーの』

どうやら金髪の少女には「不思議な力」が備わっているらしい
それはどんな力なのか?
と問われても、それがわからないから「不思議な力」なのだ              

『ね?だから・・・死なないで・・・』

今にも消えそうな・・・かすれた声で・・・言葉を搾り出す

『でも・・・いいの・・・?
 そんなことしたら・・・・・・』

『・・・さくらちゃんと会えなくなるなんて・・・嫌だからね・・・・・・』

『ありすちゃん・・・・・・』


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ピピピピッ ピピピピッ

携帯のアラームが鳴る
現在午前7時
いつもどおりの朝の日差しが少女を迎えてくれた

『・・・・・・夢・・・?』

懐かしい過去の記憶が夢として現れた
何か意味があるのだろうか?
この後何かが起こるのだろうか?
そんな予感を少し感じたが・・・大して変わりのないいつもどおりの朝だった

『さくらちゃん・・・かぁ』

8年前の記憶・・・
なぜ今になって突然夢に現れたのかはわからない
非現実的かもしれないが・・・やはり何かの前兆なのだろうか?

「とりあえず起きよう・・・」と身を起こし、着替えを済ませ、髪を整える
さて、その後はいつもの日課と化した・・・

ガラ・・・
静かに扉を開け、忍び足で目的地へ近づいていく
そしてその目的地に到着次第・・・

『おにぃ〜ちゃんっ☆』

と、ある人物に声をかける
そのある人物とは・・・

『ん・・・・・・?』

『朝だよ お兄ちゃん』

「お兄ちゃん」と呼ばれる少年・・・
名は「澤咲 椿」

反対に「お兄ちゃん」と呼ぶ少女・・・
名は「澤咲ありす」

近所では「とても仲の良い兄妹」として結構有名である
なぜ有名なのかは・・・いずれわかるだろう

『あぁ・・・おはよう ありす』

『朝ごはんできてるよ♪』

椿も着替えを済ませる
そして二人はキッチンへと何故か急ぎ足で向かうのだった

テーブルに並べられた色とりどりの料理
朝食にしては少し量が多い気がするが・・・おそらく気のせいだろう
主食はパンだそうだ

『どう?おいしい・・・?』

少し自信なさげに兄に問う妹
噂に聞いたところ・・・妹「ありす」の作る料理は殺人的なものだという
・・・あくまで噂であり、本人がそう言うだけであって真実は定かではない

『うん うまいよ』

平然と平らげる兄「椿」
この様子からするに「殺人的なものだ」という噂は噂でしかなく、
自分の作る料理に自信がないありすが開き直ってそう言ったものなのだろう
実際はおいしい料理である
・・・と思われる

『よ よかったぁ・・・
 じゃ、私もいただきま〜す』

しっかり兄が食べ終えるのを見届けてから自分も食べ始める

『・・・・・・(!?)』

何故か先ほどまでの笑顔が崩れ・・・
突然不思議そうになるありすの表情はどんどん青くなっていった・・・
何か嫌な汗まで出てきてしまう・・・
ありすの持つ箸は口に加えられたままピクリとも動かなかった・・・

(ま・・・まさか・・・ また・・・お砂糖とお塩・・・間違えた・・・?)

本日の朝食はやけにしょっぱかった・・・


『あうぅ・・・ また失敗しちゃった・・・』

『どうかしたのか?ありす』

『ゴメンね・・・お兄ちゃん
 今日のご飯・・・』

『あぁ いつも通りうまかったぞ?』

『お世辞抜きで?
 真面目に・・・?』

『あぁ』

・・・ここで妹は1つ考える
「兄は味オンチなのではないか?」・・・と

とりあえず兄には問題がなさそうだった
普通・・・砂糖と塩を間違って作られた料理を平然と平らげられるとは思えないのだが・・・
というか、塩分の取りすぎになるのではないだろうか

『それで、ご飯に何かあったのか?』

『・・・・・・お砂糖とお塩・・・間違えちゃった』

『あ〜・・・ やけにしょっぱいと思ったらそういうことだったのか』

さすがにしょっぱいとは感じていたようだ
そんな兄に苦笑いを返すことしかできないありすであった

『何か口直しでも必要か?
 なら・・・くちd』

『おいコラ!早くしねぇと遅れるぞ!』

平和な朝を切り裂く声・・・
とまではいかないが、おなじみの聞きなれた怒鳴り声が聞こえてくる
声の主は「朝斬刹那」
椿と同級生の近所に住む親友である

『ん、刹那か おっす』

『「おっす」じゃねぇよ!早くしろ』

『せっちゃんおはよ〜』

『せっちゃん言うなよ・・・ありす』

澤咲兄妹に焦る様子は見られない
「なぜこんなにも余裕でいられるのか?」
不思議でたまらない刹那であった

『早く行くぞ!』

『おーい、早くしろありす』

『はーい』

「はーい」と言ったもののありすは口直しのための紅茶を準備していた
少し急いでつくり、多少お湯がこぼれたが無事完成したようだ
さすがに紅茶まで殺人的な味になることはないだろう

急いで飲めるように少しぬるめに作った紅茶を喉に通す
ほんのり暖かい感じと異様な味が舌を刺激する

(う゛・・・しょ しょっぱい・・・)

またしても砂糖と塩を間違えてしまう

『今日・・・なにか不吉なことでも起こったりするんじゃないかな・・・』

ちょっとしたミスからそんな予感を感じるありすだった
今日も新しい一日が始まる・・・



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