元亀元年
織田信長は諸勢力の代表者に朝廷と幕府に例参することを命じた
しかし朝倉義景は命令を拒否、これを名分として信長は朝倉討伐軍を発する
この討伐軍の中には、牢人として小屋を発った水無月鶫の姿もあった
討伐軍は手筒山城、金ヶ崎城、疋田城を次々と落とし、破竹の進撃を続けていた
この勢いのまま越前へなだれ込もうという時、衝撃の報が軍に届く・・・


――AnotherStory〜戦姫〜『金ヶ崎撤退戦』――


木芽峠
全軍はここに集結し、進撃の体勢を整えていた
白髪の少女は血の色に染まった刀を見て呟く

『・・・・・・人斬り・・・・・・』

辿ってきた道には無数の死体が転がっている
全て自分達で殺してきた人間の屍だ
戦とは殺し合いだ
自分が生き残るために他者を殺す
自分は一人の兵士でしかない、戦場にいる以上殺すしかないのだ
そうしなければ自分が殺されてしまう

『・・・でも、あの人のため・・・だから』

両手に持った刀を両脇の鞘にしまい、空を見上げる
とても殺し合いがあったとは思えないような、そんな青空であった

『澄んだ・・・空・・・
 ・・・・・・・・・私の・・・名前』

感傷に浸っている間に周りがだんだん騒がしくなってくる
何事かと思い、少女は自分の近くにいた蒼髪の少女に尋ねた

『・・・・・・何かあったの?』

『ん?・・・え?な、なんで子どもがこんなところに・・・』

蒼髪の少女の方も白髪の少女と年の差はほとんどないように見える
それなのに子ども扱いされて少し気分が悪くなった

『・・・・・・・・・』

『あ、危ないよ? 下手するとここも戦場に・・・』

『戦場・・・? 戦が始まるの・・・?』

白髪の少女は二本の刀に手をかける
刀を見た蒼髪の少女はこの子が兵士の一人であることに気づき慌てて訂正した

『ぁあ・・・! あ、あなたが噂のちびっ子剣士だったの・・・?』

『・・・チビじゃない、空澄・・・』

『あ、うん ゴメン・・・空澄ちゃん・・・ね
 そっかぁ・・・あの二刀流の・・・、私より強いのかな・・・』

『だから・・・・・・この騒ぎは?』

一人勝手に納得してなかなか本題にうつらない彼女にイライラした空澄
今にも刀を抜き出しそうである

『妙な噂が流れてるんだって・・・』

『ただの噂でこの騒ぎ・・・? 情けない・・・・・・』

『なんでも・・・浅井が寝返ったとかなんとか・・・』

『浅井・・・ 浅井備前守長政・・・?
 そんなはずない、浅井とは同盟を組んでるはず・・・だから』

そう言いつつも空澄は冷や汗を流していた
この状況で浅井が寝返ったら、織田軍は前後を挟まれ挟撃を食らうことになる
もしそのようなことになったら多大なる犠牲を覚悟しなくてはならない

『うん、信じがたいところはあるんだけど・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・ところで・・・その刀は・・・』

さきほどから蒼髪の少女が大事そうに持っている刀が気になった空澄
無理もない、その刀からは不吉なオーラが流れている
その堀には「蒼天華」と刻まれているようだ

『これ? なんでもないよ、ただの刀』

空澄は突然刀を抜き、彼女に斬りかかった
蒼髪の少女は慌てて自分の刀を抜き、かろうじてその太刀を受け止めた
だが・・・思いも寄らぬ方向からもう一本の刀が飛び出した
その刀は少女の首を斬る寸前で止まり、冷たい刃先が首を撫でる

『な・・・な・・・』

『・・・・・・ふざけないで』

周りの空気が凍り付いてしまったかのように張り詰める
にらみ合いが数分続いた後、空澄が刀を下ろした

『・・・噂の戦姫、この程度なの・・・・・・』

空澄は蒼髪の少女を見下すような眼で見つめる
だが少女はそんな空澄に対して笑みを浮かべていた

『・・・・・・?』

『痛かったら・・・ゴメンね?』

その言葉を聞いた瞬間、空澄の左頬が裂け、血が噴き出した
そうはいってもごく少量、ちょっとした切傷でしかなかったが

『・・・・・・・・・・・・』

『あれ・・・?怒っちゃった・・・?』

『・・・・・・さすが
 感情を前に出しすぎているけど・・・悪くない、これが戦姫・・・』

『戦姫? ち、違うよ、私そんなたいそうなものじゃ・・・』

頬から流れた血を指でぬぐい、その血を舐める
空澄のそんな行動が不気味で少女は言葉を詰まらせた

『蒼天華=@あの戦姫水無月楠千代≠フ刀・・・
 その刀・・・どこで・・・・・・・・・』

『・・・母さんから受け取ったの、私が継ぎなさい・・・って』

『・・・・・・・・・母さん?』

『うん、私・・・水無月鶫
 戦姫の刀を継いだ・・・新人、かな?』

表情が硬いままの空澄に微笑みかける鶫
だが空澄にとってはその微笑みは不気味なものにしか見えず、更に表情が強張るだけだった
鶫は刀をしまうと空澄の頭をクシャクシャとかき回した

『可愛い・・・ こんな子と一緒に戦えるんだ
 歳の近い人がいなくて退屈だったんだよね』

『や、やめ・・・っ』

『あ、こうすると抵抗するんだ、可愛いなぁ・・・』

『ぁ・・・や・・・やめ・・・っ あっ・・・ぁぅ』

『報告します!浅井備前守長政、御謀反!!』

『・・・・・・・・・!?』

突然訪れた衝撃の報
場に重い沈黙が走った
浅井が寝返り、背後から攻めてくる
下手をすれば全滅する可能性すら考えられた
軍全体が動揺し、みな冷静さを欠いている

『全軍撤退用意を!
 秀吉隊、勝正隊、光秀隊は金ヶ崎城にて殿軍を務めよとのこと!!』

『殿軍・・・』

『しんがり?』

『殿軍も知らないの・・・?
 追撃してくる敵軍を食い止める・・・、それが殿軍』

空澄はよくわからない動きで殿軍のイメージを説明した
もちろん鶫にはその動きの示す意味がわからない
だが殿軍の意味を理解することはできた

『そ、それって・・・危険な任務じゃない!?』

『・・・戦場に安全な場所なんて存在しない、違う?』

『ぅぐ・・・・・・そ、そうかもしれないけど・・・』

『なら、戦う それだけ・・・・・・』

――――――――

―金ヶ崎城―

軍にはピリピリとした空気が走っている
もうすぐ浅井軍が追ってくる
そう思うと緊張せずにはいられなかった

浅井軍総大将、浅井長政は年も若く、織田信長に気に入られていたというほどの人物
その証拠に妹の市を長政に嫁がせて同盟を結んだほど
そんな長政が裏切るとはとても考えられなかった

『・・・鶫も殿軍だったの』

『・・・・・・ま、まぁね
 お手柔らかによろしく・・・』

刀を握る手が震えている鶫
戦う前からその手は汗だらけである

『鶫、焦らないで・・・
 相手を倒すのが目的じゃない、ただ時間を稼げればいい・・・』

『時間って・・・どれくらい・・・?』

『・・・二刻稼げれば十分』

『二刻・・・ ま、頑張ってみるよ』

『無駄な戦いは避けろ・・・って、言ってた』

『了解』

何か希望でも見えたのか鶫の瞳に光が宿った
手の震えも治まり、その刀を持つ手はとても心強い味方となっていた

『ところで・・・どうして謀反がわかったんだろう?』

『・・・・・・お市様から贈り物が届いたみたい』

『贈り物・・・?』

『小豆、両端を紐で縛った袋に・・・・・・』

またもよくわからない動きでそれを説明する空澄
その動きが可愛くてうっとりした顔で空澄を見つめる鶫

『小豆がどうして・・・』

『両端の紐、小豆
 両端の紐が朝倉と浅井を表し、小豆が織田を表している・・・』

『前方には朝倉・・・
 背後に浅井・・・・』

『そう、つまり袋の鼠・・・』

To be continued......


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